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VS女王③
クーデターを起こされ親を殺されたとなれば、首謀者の臣下を恐れることもあって、過度に人を寄せつけなくなっても、しかたない。
訳あり人間不信な女王と会える人は極極限られていたが、つけいる隙はあった。
重度の人間不信のわりに、勇者との謁見には、すぐに応じたあたり、わりとミーハー。
世界の情勢や政治からは、そっぽを向いても、町の流行りや自国他国の文化などには目がないとか。
だからといって女王自ら外出をしないが、代わりに従者を行かせて報告させたり、しょっちゅう、芸に秀でた者、詩人や歌い手、道化、俳優を城に呼びよせるらしい。
できるだけ従者や臣下をそばに置かないで、女王一人で、そのパフォーマンスを堪能するという。
協力者の神官曰く「ここがねらい目です」と。
まさに神官は、女王のお眼鏡にかなう芸人を手配する係。
その推薦で、踊り子の俺を、女王のもとに潜入させるわけだ。
で、特殊能力「洗脳」のダンスを披露し、俺の虜になってもらい、嬉々としてコンパスを差しだしてもらう。
女王の意思が半ばない洗脳状態で、コンパス譲渡が有効なのかは分からず、そこは賭け。
まあ、失敗したとして、洗脳されている間の記憶はないから「勇者に謀られた!」と女王が騒ぎたてることはなかろう。
危険性がすくないなら、第一に試したいところ。
仕事のはやい神官の手引きによって、城で幽閉されて三日後には、潜入任務に。
ただし、女装して、女の踊り子として。
女装するのも、女の踊り子に扮するのも、過去のことがあって縁起がよくなかったものを、いたしかたない。
女王が城に招くのは、女限定だったから。
「城で男漁りをしている」と噂がたつのを避けてか、人ギライに加えて男ギライなのか。
なににしろ、洗脳する前に、女装が見破られたらオシマイだったが「よくきた。そなたの磨きあげた芸を見せなさい」と不愛想に女王は挨拶をしただけ。
無表情でそっけないのが常という、神官の前情報どおり。
疑って見ることも、問いつめることも、従者や兵士を呼ぶこともなく、どうやら第一関門突破。
ほっとする間もなく、伴奏が流れてきたのに踊りはじめる。
転生してから、すっかり踊り子が板について、人前でパフォーマンスするのは慣れたもの。
拍手や喝采されるのに、やり甲斐や面白味を覚えている。
女装が憂鬱なのを抜きにすれば、任務ながら、女王にダンスをお披露目するのは、一パフォーマーとして光栄なところ。
ただ、洗脳のダンスをするのは乗り気でなかった。
いや、もともとセクシーが売りの踊り子ですし?
日ごろ、酒場でぷりぷりオケツをふりふりして、酔っぱらいどもを「イッちゃうー!」と熱狂させているし?
慣れっこのはずが、それでも今更、顔が赤らむほど、ダンスの振りつけがえげつなく性的。
自分がするセックスのありのままを、人に見せつけるようなもんだ。
まあ、大勢の人目があるなかで、野郎三人に犯され、獣姦、視姦までされたこともあるよ。
あるけどさ。
経験があるからって慰めにはならず。
テンションがさらに下がりそうになったのを「やばかったら、すぐに逃げるんだよ」と勇者がチワワな瞳で訴えかけたのを思いかえして持ちこたえ、フィニッシュ。
体力消耗と羞恥で、汗だくになり息を切らしつつ見やれば、頬を上気させた女王が遠い目をしてぼんやり。
「よし、かかったな」と一息ついてから「女王さま、人払いしてもらっていいですか」と試しに命令。
手を叩くと、ダンスの伴奏をしていたヤツらが部屋を退出。
それを見届けると、やおら女王に歩みより「ほかに人はいませんか?隣室や扉の前で待機している従者や兵士も?」と囁く。
俺から目を放さず肯いたので、あらためてコンパスについて切りだそうとした、そのとき。
にわかに勢いよく腕を引っぱられて、ソファに倒れそうに。
背もたれをつかみ、座面に片膝を乗せて踏んばる。
目の前から消えた女王は、いつの間にか背後に佇んで。
俺に無言のプレッシャーをかけつつ、つかんだ肩に爪を食いこませ、ぎりぎりと。
鬱なひきこもり女王にしては、男並みの握力や腕の力、有無をいわさず人を屈しさせる、いかめしさがある。
また、遠くのステージから見ても違和感を持たなかったのが、間近で接してみると「あれ?こんなに大きい人だったけか?」と。
俺より背丈があるし、肩幅が広く腕も太くて、これじゃあ・・・。
つい、顔だけ振りむけ、まじまじと女王を見ていたら、舌をべえっ。
急なアッカンべーより、舌にはりついているものに驚かされる。
舌に張りついてるのは「気付薬」とされる薬草だ。
「誘惑」「洗脳」といった惑わす攻撃に、耐えるための有効アイテム。
一回、俺も使ったことがあるが、あまりに味と匂いの刺激がすさまじく、大泣きして立っていられなかったほど。
同じものを口に含み、平気でいるのに感心しつつ、いやいや、対策していたこと自体がもう。
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