5人が本棚に入れています
本棚に追加
VS白魔導士①
オトメルから脱出して、女神の妹、ウミルと会い、オクトーをぶっ倒して、なんとか新しいエリアに辿りつけた。
その港町では、オトメルのように揉めごとに巻きこまれず。
長い船旅をしたので休養と、戦闘地帯に踏みだす前の準備をするため、しばし滞在することに。
「いやあ、よかったよかった」「一生、オトメルに足どめされるかと思った」と勇者一行は和気あいあいとしながらも、俺だけは心中穏やかではなく。
オトメルの女装王様の忠告が忘れられずにいたからで。
港町に到着した夜、ちょうどチャンスに恵まれたので、早速、調べることにした。
勇者は町長が催す歓迎会にお呼ばれ。
格闘家は畑を荒らす魔物を追いはらう手伝いに。
白魔導師は家家を回って病人の看護に。
俺は体調が優れず、宿屋でお休み。
と見せかけて、白魔導師を尾行。
もちろん、女王の忠告に基づいてだ。
曰く「白魔導師は夜に家を回るとき一時間ほど、姿を消すことがある」らしい。
神官や神父、修道士など連れがいても、かまわず。
重症の患者を診ている最中でも、席を外すのだとか。
連れや患者とその家族は、首をかしげながらも「仲間になにかったのだろう」「勇者に急用があるのだろう」とさして気にせず。
そう、たまになら、不測の事態が起こったものと考えられるから、不思議なことではない。
が、女装王様お抱えの間者の報告によると「毎度毎度、決まった時間に、その場を放れるようです」と。
その理由に女装王様は心当たりがあるようだったが「自分の目でたしかめてみたほうがいい」と詳しくは教えてはくれなかった。
深刻そうに告げられて、いい予感がしなかったものの、聞いたからにはスルーして旅をつづけられまい。
ただでさえ、パーティー内では浮気が横行して、関係がこんがらがっているのだ。
これ以上、時限爆弾になるような不安要素を抱えたくなく、早めに白魔導士の疑いについて見定めておきたいところ。
前の酒場の事件での、含みある白魔導師の態度も、ずっと引っかかっていたし。
喉に刺さった小骨のような、その謎が明かされるのを望みながらも、仲間を疑うことに気後れしながらも、注意深く白魔導師の尾行をつづけた。
家々を訪問すること自体は変哲がなく、号泣する相手に感謝されるのを見たりすると「俺、なにやってんのかなあ」と嫌気がさしたものだが、女装王様の云ったとおり。
入ったばかりの家から「すみません、すぐにもどってきますから」と慌てて跳びでてきた白魔導師。
申し訳なさそうな物言いをしつつ、頬を上気させ、目を爛々とさせているような。
走って向かったのは、近くの森。
真っ暗なのにかまわず、明かりもなしに、どんどん奥へと。
見つかるから、俺も明かりを持てず、なるべく放れないよう、足音を頼りに追跡。
途中で見失ったものの、探しまわるうちに淡い明かりが目につき、ぼそぼそと声も聞こえて。
近くの木に身を潜め、そのあたりを覗きながら、聞き耳を立てると。
「長く、交信ができなくて申し訳ありません。
狭い船のうえでは、人目につかず、交信することができませんでしたから。
ええ、ええ、まったく勇者は、忌々しくも、見事にやってくれましてね。
女神の妹、ウミルは深海に身を潜めていたのが、勇者の呼びかけによって地上にもどり、またオトメルと絆を結ぶことに。
これまた、ひきこもりをやめたオトメルの女王が曲者でしたから。
あなたさまの息がかかった城の臣下を一蹴して、勇者を逃したほどです。
これからも勇者の肩を持ち、支援をするかもしれません」
俺はてっきり、勇者以外の男と浮気をしていると思ったのだが・・・。
清純に見せかけて、行く先先の村や町で男遊びをしている、隠れビッチだと。
が、今の内容からして、的外れもいいところ、俺の頭はお花畑だったらしい。
「え、いや、そんなまさか・・・!」とパニック!
俺一人で対処しきれることでないし、そもそも一回の盗み聞きだけで、どうこう判断はできなかったから、ここは一旦、撤退を。
淡い光を放つ球体に、白魔導師が話しかけているのを見ながら、一歩、一歩、じりじりと後退。
「よし、気づいていないな」と前に向きなおり、走りだそうとした。
そのとき。
一瞬にして、全身になにかが巻きつき、地面にどさり。
顔だけを覗かせ、体を覆っているのは、絹糸をつむぐ繭のようなもの。
心身のダメージが重い人を、治癒効果のある繭に包むという回復魔法の一つだったはず。
そう、ということは・・・・。
最初のコメントを投稿しよう!