VS女王①

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VS女王①

ba89fc54-ce95-4a18-bf53-bc72ac5f4bcd 魔王は世界の果てににいる。 そこまで至るには、ほぼ全世界の国を通過しないといけない。 多くの国は、来訪すれば歓迎してくれ、協力的に対応してくれるが、そうとも限らないこともある。 魔物より国同士、人同士、泥沼状態になって揉めている場合だ。 長い長い砂漠を渡って、やっと辿りついた「オトメル」がそれに当たった。 前国王と王妃が早くに亡くなり、若き一人娘が女王として君臨する国。 砂漠と海に挟まれて、陸の孤島のように閉ざされた土地柄ながら、船による商売や交易が盛ん。 このオトメルの港から出航する船でしか、いけない島や国があり、おかげで辺鄙なところでも、旅人や商人が多く行き交い、栄えている。 まさに俺たち勇者一行も、世界の果てにいくのに、オトメル経由の航海が必須。 この航路以外に、つぎのエリアに辿りつける道はなかったが、そう心配はせず。 相手が若き女王となれば、勇者の美貌にイチコロで、こころよく船に乗せてくれると見こんでいた。 が、甘かった。 やっと旅に過酷な砂漠地帯を抜けだし、疲弊しきって城壁の門をくぐったところで、兵士に囲まれ連行。 一応、城の客間に通されたとはいえ、幽閉されることに。 客間に俺らは残り、つまり人質となって、勇者だけが女王と謁見。 もどってきた勇者は頭を痛そうにし、俺たちの頭も痛くさせる会談の内容を聞かせた。 今、オトメルは、勢力を急拡大する他国に侵略されそうになっているらしい。 もちろん刃向かうつもりだが、長年、平和だっただけに、対抗できる兵力や軍備がない。 その準備をしているうちに、他国に攻めこまれ、のっとられてしまう。 「だから、時間稼ぎをしたいんだって。 俺らがオトメルにとどまっている以上、相手国は遠慮するから。 すくなくとも、城壁内に侵攻はしてこないだろうし、 戦いに参加しろとは云わない。 ただし、戦いの場で、相手国に顔を見せるくらいのことはしてほしいんだとさ」 基本的に俺たち勇者一行は魔王を倒すこと以外、国の政治や国同士の喧嘩に干渉をしない。 そして『干渉をさせてはいけない』と暗黙の了解を、どの国も守っている。 そのルールをぎりぎりで破らない、巧妙な提案だ。 勇者はオトメルに長期滞在するだけ。 戦争に口だしせず、どちらの国の加担もしないが、結果的に相手国の足止めをさせるという。 「魔王という、人にとって共通の強敵がいるはずが、こうして人同士、いがみあい剣を向けあい、多くの人命を失う真似をするなんて。 魔王に有利になるだけというのに・・・」 世を憂いて格闘家はため息をついたものを「こうなったのは魔王のせいでもあるし」と勇者がまあまあと。 他国が侵略してきのは、魔王の支配力が強まったのも一因という。 その影響で、海にいる魔物が船を襲うのが多くなったこと。 女神の妹にして、海の守護者「ウミル」が、魔王を恐れて雲隠れしたこと。 国力が落ちたうえに、ウミルの加護ながくなり「弱っている今なら、飲みこめる!」と他国に狙われたわけだ。 まあ、そういう事情があるなら、世界平和を目指す勇者たるもの、すこし手を貸してもよさそうなところ。 弱りきった哀れなオトメルが、卑劣な強国に踏みつぶされるのを、見過ごせないし。 が、あいにく俺たちは、のんびりしていられなかった。 これまで拠点づくりと、部下の育成強化に勤しんでいた魔王が、大戦の準備を整えつつあるとの情報があるからだ。 噂では、そろそろ本格的に人間社会へ魔の手を伸ばし、血祭りにあげだすではないかと。
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