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創紀の箱1
人間にとって最も大切なものとは何なのだろう?
滞在先のホテルのベッドで幸せそうに昼寝する妻と幼い娘を眺めていると、ふとそんな事を考えてしまう時がある。
今日も〆切間近の執筆作業中に睡眠中の妻子に目を奪われ、筆を置いている。フリージャーナリストとして働く身としては早々に原稿を書きあげねばならなかったのだが。
大人しく一息つこうと、自身が最も大切だと思っている者達へ再び視線を向けてみると、先程までは互いに抱き合う、いつもの姿勢であったはずの一人が生まれついての寝相の悪さで、とても描写出来ない酷い寝姿へと変貌していた。
あんまりにもあんまりな格好に私はぷっと吹き出す。
その時、隣であおりを受けていた、もう一人と目があった。
どうやら愛妻の一撃を喰らって眠りが覚めかけていた折に私の笑い声が加わって起こしてしまったらしい。
「うるさくしてすまない。静かにするからもう一眠りしなさい、ケイト」
愛娘は布団を目の高さまで持ち上げながら申し訳なさそうにしている。
ああ、そうか。
「おいで」
私は三人で眠るには少々狭いベッドの端にもぐり込むと、娘を呼んで頭を撫で、小さな身体を胸に抱きしめる。
「眠れそうかい?」
返事は寝息として返ってきた。
早急に著書を完成させなければならない。そう決意を固め、中断中の作業を再開すべく立ち上がる。
一刻も早く、創紀の箱を完成させるために。
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