中黒友仁の憂鬱

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「だ···いじょうぶですか?」 「あ…あぁ」 さっきとは形勢が逆転して心配そうに俺の瞳を覗く男…。 二重のハッキリした目鼻立ちに黒く短い髪がより精悍さを演出している…。 顔の造形に派手さは無いが八の字になった眉が俺を本気で心配しているようで女子なら思わずキュンときてもおかしくない。 …クッソ、アップに耐えうるいい面構えじゃねぇか。 相手が何も言わないのをいい事に思わず至近距離からじっと見つめていた。 しかし冷静に考えてみればこの体勢、俺の体が奴に抱えられている…いわゆる姫抱き風。 奴の方が体がデカいせいで客観的に見て俺が助けられてる側じゃん。 俺が助け起こしたはずなのに、立場が入れ替わってるなんておかしいだろ! 「いや、そのセリフ···俺がさっき言ったやつ」 ちょっと間が空いたが慌てて言い返した。 「あ!·····すみません·····」 腕の中からゆっくりと体勢を整え、困った風に力無く笑う男の胸を手のひらで押し、俺は立ち上がった。 「本当に申し訳ありません·····」 「あぁ·····気をつけろよ」 たいして乱れてはいない上着の襟をピンと張り、俺は男を目の端に入れつつスーツに着いた埃を払った。 奴はがっくりと項垂れて、はぁぁ〜と深くため息を出している。 「オイ、仮にも試験会場なんだ。シャンとしろ」 一瞬びっくりしたのだろう、目をパッと開いて·····それから奴は両手で自分の頬を叩き、蕩けるような笑顔をしてみせた。 「そうですね、ありがとうございます!」 「グッ·····」 何なんだ?この必要以上に眩しい笑みは? …それにその気合いの入れ方! …は…反則じゃねぇか…? 情報過多故に目を閉じ、奥歯をグッと噛みデレそうになる顔に力を込めた。 「あの…何か?」 「·····いや·····何でも·····」 俺と同じようにスーツに着いた埃を手で払い、シャンと立つと上背はかなりある。 俺の背丈は百八十だぜ? その俺でも視線を上げてしまう男なら惚れ惚れする体格。 今、偶然出会ったコイツに俺はひどく興味を覚え、このままやり過ごせない気持ちを持った。 「なあ、あんた急ぐ?悪いんだけど俺が終わるの待っててくんない?」 「あー…いいけど·····」 「じゃ、すぐ近くのスターニャックスで」 そう言うとちょうど扉が開き、俺は係の女性に呼ばれて隣室に入った。 なる早で面接を終え、俺は待ち合わせのスターニャックスに足を向けた。 平日の昼間のせいか店内は程よく空いていて店員も暇そうだ。 俺は注文した飲み物を受け取ると店内をキョロキョロと歩く。 半分位席が埋まった店内奥のボックス席にこちらを向く形で奴は座っていた。 「よ、本当に待っててくれたんだな」 「約束したし、…悪い人じゃないだろ?」 ちょっと頬を膨らませ上目遣いに視線を寄越した。 ほほう。 俺の言う事を素直に聞く人の良さに好感度爆上がり。 騙されたり利用されたりしたらどうすんだよ。 「ほら、座れよ。あ、それから面接お疲れ様」 何の疑いも持たないような顔して言い放った言葉は育ちの良さを感じさせるものだった。 「お疲れ。でもな、俺は腹黒いかもよ?」 「本当?」 「これから自分の目で確かめてみればいい」 キョトンとした顔をしてそれから目尻が下がり、奴は笑った。 「はは、うん。わかった。そうさせてもらう」 胸が大きく脈打ち心にさざ波が立つ。 何だろう···この笑顔も凄くイイ。 それこそ本当に裏表が無くて何でも、どんな言葉でも信じてしまうんじゃないかと心配になるこの無防備な笑顔。 そしてその顔は一目惚れをしてしまいそうなほど·······それほどまでに俺の心を捕えてしまった。 「お前いいな。俺の友達になれよ」 「なれよ、じゃなくてなって欲しい、だろ?」 やんわりと訂正されて俺はさらにググッときてしまった。 な ん だ よ ! 何でも受け入れる体なのに自分の考えをちゃんと持って相手に伝えてくれる。 「ああ、悪い。俺と付き合って欲しい」 「斜め上に行ったな。間違っては·····ないのか?」 首を傾げ、うーんと考え込んでしまった様子も何だか新鮮だ。 素直にハッキリと物申す様子が気に入って、俺は生まれて初めてこの男を手に入れたいと思った。
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