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ひみつの、ひみつの。
「これ、絶対に秘密だからね?」
マナカちゃんは、それ、をやるたびいつも私に言う。上目遣いで、まるでオネダリでもしているような可愛い顔。その目で見つめられると、私はいつも“う、うん”としか言いようがない。
同じクラスのマナカちゃんは、とっても可愛い女の子だ。
高校生とは思えないような小柄で華奢な体つきに童顔にツインテール、くりくりとした大きな目。同性の私から見ても“庇護欲をそそられそう”なタイプだと言っていい。
私が長身で、昔から運動部で結構がっちりした体つきなので余計そう思うのかもしれない。並んで歩く時、話す時、彼女の顔を見下ろすのはちょっと首が痛いほどなのだ。
明るくて可愛らしくて魅力的。ただ、そんな彼女にもちょっと妙な癖がある。
それがこれ。
放課後、誰もいなくなった教室で、秘密の儀式を行うのである。
「ねえマナカちゃん、これってどういう意味があるの?」
それは、とあるクラスメートの机の――すみっこのすみっこに、小さなマークを書くというもの。
お星さまのような、魔法陣のような、不思議な模様だ。サイズは親指の先程度なので、目立たない。
毎日彼女はそのマークをわざわざ彼の机の右上隅の書く。もし、彼が昨日の分を消していなかったら、一度自分で消してからもう一度書き直すのだ。
そして、その上に右手の親指を乗せて、なにやら呪文を唱えるのである。
『アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ。アリカナセラ、フラワ、フラワ、フラワラナ……』
一体何語なのだろう。
あるいは、特に深い意味なんてないのだろうか。その呪文を唱える間、私には左手を握ってくれと頼むのだ。
儀式はそれだけ。
落書きをそのまま残して、誰にも見られずに教室を出れば完了らしい。もちろん、私には見られているわけだが。
「変な呪文、だよね。何語?」
「ふふふふふふふ、さあ、何語でしょう?」
私の質問に、マナカちゃんはにやりと笑って言う。私は適当に、ヘブライ語とかタイ語とか?と言った。なんとなく、響きがフランス語とかドイツ語系ではないような気がしたのである。
なお、実は英語でしたと言われても驚かない。なんといっても、私の英語の成績は万年2だ。
「わかんないよ。私、語学苦手だもん。マナカちゃんと違って」
私がむくれると、マナカちゃんは何がおかしいのかころころ笑ったのだった。
「あははははは、ごっめん紬ちゃん!イジワルするつもりじゃなかったの。これね、特別な“神様の言葉”なのよ」
「神様?」
「うん。良い神様か、悪い神様かは知らないけど。とっても大切な言葉なんだって。だから、借りてみたの」
彼女は愛おしそうに机を撫でた。
「お願い叶えるためには、絶対にバレちゃいけないの。……だからね、秘密にしてね、このことは」
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