デスゲームに巻き込まれたらしいが、どうやらまともにゲームが始まりそうもない件について。

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 壁紙の下から出てきた、ボロボロのコンクリートの壁を指さして言う秋山少年。 「賞金もちゃんと出るかどうか。頑張って戦っても、なんかメリットなさそうですこのゲーム。さっさと脱出した方がいいかも。僕も塾の時間が迫ってるので、早く帰りたいんですよね。大学受験、絶対本命に合格したいので」 「さ、さいですか……」  最近の高校生、メンタル強すぎるだろ、と思う俺。  壁紙で隠してあった扉には鍵がかかっているようだが、こっちは男女合わせて数十人もの人間がいるである。全員で体当たりしたら開いてしまう気がしないでもない。  そもそも、なんでデスゲームさせようというのに、自分達は一切拘束されていないしセンサーみたいなものもくっつけられていないのだろうか。よくあるデスゲームなら、抵抗したら爆発する首輪とかくっつけられていそうなものなのに。 ――まあ、多分お金、なかったんだろうなあ。  こんな会話をしていても、スピーカーはうんともすんとも言わない。よく見たら、シャンデリアも張りぼてだし、スピーカーはかなりの年代物だし、監視カメラ的なものも設置されていなさそうである。 「ええっと、みなさーん!ここに扉がありますので、みんなで一緒に体当たりしてぶち破って脱出しませんかー?あ、あとここ東京駅から徒歩圏内らしいし、スマホも圏外じゃないので多分歩いて帰れるとおもいまーす」  秋山少年が声をかけると、人々は“おおおおお!”と歓声を上げて近づいてきた。特に反応したのが、さっきからアニメアニメうるさかった女子高校生である。 「やったあ!これで帰れるね!なんとしてでも今日のリアタイは逃せないのよ、異世界転生した喪女が魔王の恥ずかしい写真を撮って脅迫するっていう大事な場面なんだから!」 「何そのアニメ!?」  彼女は胸に“鈴木”というプレートを付けている。鈴木少女は雄叫びをあげて扉に突進した。  めきめき、ばきばきばき!という音を立てて破壊される扉。――扉がボロかったのか、彼女のパワーがやばかったのかどっちだろう。 「……お、おお……」  しかも扉の向こうは、そのまんま外だったらしい。何やら遠くに、町の明かりが見えているような。 「と、とりあえず」  俺は参加者たちを振り勝った。 「脱出……します?」 「異議なーし」  デスゲームに巻き込まれたらしいが、どうやらデスゲームやらずに家に帰ることになりそうである。  とりあえず、命があって良かったと思うことにしよう。なんかこう、やけに疲れてはいるけれど。
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