二人の生活

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二人の生活

「ただい…」 マンションの玄関を開けて奥の部屋に声をかけようとした大和(やまと)は、話し声に気づいて言葉を止めた。 「出来た!これでどうかな?」 恵真(えま)の明るい声がする。 誰か来ているのか?と思ったが、玄関には見慣れた恵真のパンプスしかない。 大和は静かに靴を脱ぎ、音を立てないようにリビングへと続くドアをそっと開けた。 ソファに座った恵真が、ローテーブルに置いたスマートフォンに向かって話をしている。 「うーん、変じゃないかな?」 『大丈夫!バッチリよ』 恵真が画面を覗き込みながら聞くと、スピーカーから相手の声がした。 どうやら、テレビ電話をしているらしい。 「じゃあ明日、これでやってみるね。ありがとう!こずえちゃん」 『いいえー。頑張ってね!』 「うん!また報告する」 『はいよー。あ、伊沢にもよろしくね』 「分かった。またねー」 通話を終えた恵真が、バッグを置く大和の気配に気づいて振り返った。 「大和さん!お帰りなさい」 「ただいま、恵真」 そう言って微笑んだが、次の瞬間、ん?と真顔になる。 「恵真、その格好…」 「あ、これ?ふふ、家で制服着てるなんて変ですよね」 「いや、それより…」 ソファから立ち上がり近づいて来た恵真は、パイロットの制服姿だった。 確かに家で着ているのも珍しいが、大和が目を留めたのは、胸元の鮮やかなブルーのスカーフだ。 「それ、どうしたの?」 「ん?あ、大和さんはご存知ないですか?うちの会社の女性パイロットの制服って、ネクタイとは別にスカーフも支給されているんです」 「えっ!そうなのか?」 「はい。ジャケットの襟をめくると、ほら、ここにスカーフを通す所があって、その日の気分でネクタイかスカーフかを選べるんです。ネクタイは男性と同じで1種類ですけど、スカーフは色とか柄、大きさが違うものが4種類もあって。それにジャケットやブラウスも、女性用のは少し、こう…ウエストに沿って絞ったデザインなんです」 制服に手をやりながら説明する恵真に、へえーと大和は感心する。 「女性パイロットのスカーフなんて知らなかった。だって恵真は、いつもネクタイだったし」 「そうなんです。私もスカーフには興味なかったから。他の女性パイロットは、たまに着けている人いますけど、私は今まで一度も。でも明日はスカーフを着けてきてくれって言われて…」 「え、誰に?」 すると恵真は、首をかしげてうつむいた。 唇をほんの少しとがらせて頬を膨らませているその様子は、拗ねている証拠だった。
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