人差し指があればじゅうぶん

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 ママは、この町の人々に「導師さま」と呼ばれていた。この町に何かあると、出ていって困りごとを解決したり、大事な約束ごとに立ち会ったりするのが仕事だ。例えば、火事の火消しを手伝ったり、結婚式に祝福の言葉を授けたり、罪人の足に毒ヘビを巻いたりといったこと。ママは水も火も何でも生み出せた。罪人をじわじわと死に追いやる毒ヘビも。永遠の愛も。  町の人は、ママのことをみんな慕っていた。だから当然、私にも親切にしてくれた。  私は幸せだった。  ずっと、ずっと。  この町の外にも世界があることを、知るまでは。  いや、違うな。  うすうす分かってたんだ。この世界は終わりがないくらい、途方もなく広いということ。旅人が二度と戻らないこと。どこからか、知らない歌が聞こえてくること。  私にとっては、ラッカだった。  ラッカは旅する子どもだった。ラッカのパパは、町から町へと、パパが作った機械を売り歩いているのだそうだ。世界中にパパのお店があるらしい。この町に来たのも、新しいお店を出すかどうか決めるためなのだと、ラッカは言った。 「引越し、この町でで何回目だと思う?」 「百回目?」
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