牛飼いの青年

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牛飼いの青年

 マザー・モウと見つめ合っていると、昨日のことを思い出した。昨日の夕刻、頬を赤くしたメイに抱きつかれたあと、僕はマザー・モウに愚痴をこぼしたのだ。 「マザー・モウ、聞いてくれよ。僕は明日の夜、メイと交配をしなくてはいけないんだ。人類を存続させるために。僕とメイが人類最後の男女なんだ。サトウ夫妻はもう歳だから、子どもを作ることはできない。だから、人類を絶滅させないために、僕たちは何度も裸で抱き合って交配をしなくちゃいけない。すべて、サトウ夫妻の命令でね」  マザー・モウは納屋の近くの草地で膝を折り、伏せていた。僕はその大きな身体を背もたれにして座っていた。マザー・モウは少しも身体を動かさず、僕の話を受け止めてくれていた。彼女は言葉を話さないけれど、僕にとってはそれで十分だった。 「ソラは、メイとの交配を望んでいるの?」  なんとなく、彼女がそう問いかける声が聞こえた気がした。でも牛が人間に問いかけるわけがないので、僕の願望が作り出した声だと思う。僕は日ごろから、「牛たちと話ができたら楽しいのにな」と思い続けていた。 「いや、そんなわけがあるか。あんな怠け者の、働きもせず、命に感謝もしないで牛たちの肉を貪り食う人間となんてふれあいたくもないよ。サトウ夫妻には恩があるけれど、メイは別だ。たぶん僕はサトウ夫妻のどちらかが亡くなったら涙を流すだろうけど、メイが死んでもなにも感じないと思う」  僕は小さな声で答えた。
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