かしこい牝牛

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かしこい牝牛

「きみは牛たちの中でも特別賢そうだから、こういう話をするんだけどね」  ソラは私に話しかけるとき、いつもそういう前置きをした。この彼の見立ては正しかった。この牧場にいる十頭の牛の中で、人間の言葉を理解できるのは私だけだ。他の牛とは鳴き声でコミュニケーションをとれるのだけれど、私がソラから聞いた複雑な話を聞かせても、それを理解できている牛は一頭もいなかった。 「サトウ牧場は、今では海に囲まれた孤島なんだけど、ずっと昔からそうだったわけじゃない。僕のノートパソコンによれば、ここが孤島になったのは十七年前の〈アンブレラ戦争〉のときってことで間違いないみたいだ」  ソラがそう教えてくれたのは、七年前、私が生まれたばかりのころだった。ソラは働き者で、勉強家だ。彼の話によれば、彼の納屋には〈ノートパソコン〉なるものがあり、それにはおびただしい量の、ありとあらゆる情報が集約されていて、毎晩彼は、それを見てこの世界の過去について学んでいるらしい。
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