かしこい牝牛

2/3
前へ
/16ページ
次へ
「ノートパソコンではインターネットっていうのが使える。こんなに世界が破壊されてしまった今でも電波は飛んでて、知りたいことを検索すればいろんなページにアクセスできる。でもアンブレラ戦争でページを更新する人間がみんな死んでしまったから、インターネット上の情報はずっと十七年前のまま、変わってない」ソラはそう言っていた。「まあ十七年前の情報でも十分おもしろいけどね。のってる情報はいつになっても知らないことだらけで、いくら勉強しても、全てを知ることができないんだ」  ソラは私にたくさんのことを教えてくれた。アンブレラ戦争の概要や、サトウ牧場、そして地球や、彼自身が辿ってきた過去について。  アンブレラ戦争というのは、十七年前にあった世界大戦であるらしい。温暖化により地球の陸地が減ったことで領地を奪い合い、最終的には酔狂な支配者がやけになって最も危険な兵器を使い、その結果、ほとんどの大陸が海に沈み、ほとんどの人間が死に絶えてしまった。ここ〈サトウ牧場〉は運よく残った陸地であり、サトウ一家とソラ、それに私を含む牛たちは、運よく生き残った生き物だ。サトウ牧場は今や周囲を海で囲まれた孤島であり、アンブレラ戦争以降他の島との交流はいっさいないため、地球上にどれほどの生物が生き残っているのかわからない。ソラは、「僕は、サトウ家の三人と僕、この四人以外に人間はいないんじゃないかと思ってる。たぶんこの考えは正しいよ」と言っていた。ソラはこの島から出たことがないはずなのになぜ他に人間がいないとわかるんだろう、と私は疑問に思ったけれど、大好きなソラがそう言うのなら、きっとそうなのだろうと思った。  当のソラ自身は三歳の頃、このアンブレラ戦争で家族をなくしたらしい。  終戦直後、北側の林で彷徨い、泣いていたところをアイ・サトウに拾われ、サトウ牧場で育てられることとなった。そして今は、育ててもらった恩を返すため牛たちに関わる全ての業務を担っている——  と、そういうことを、私はソラから聞かされた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加