かしこい牝牛

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   今までにソラから聞いた色々なことを思い出していると、納屋のドアが開いた。崖の方からはコウとアイが泣きながらうろたえる声が聞こえる。メイ、メイ、と彼らは崖の下に向かって叫んでいるようだ。 「おはよう、マザー・モウ」    納屋のドアから出てきたソラが私に微笑みかけた。私がはじめての出産をした五年前から、彼は私のことを〈マザー・モウ〉と呼ぶようになった。 「崖のほうからサトウ夫妻の声が聞こえるけど、なにごと?」  ソラは目をこすりながら西の方に視線をやった。西の空はまだうっすらと夜の色を残している。 「向こうでなにかあったんだな、マザー・モウ?」  ソラは慌てたようにそう言うと、ボロボロの長靴に足を突っ込み、西の方へと走っていった。
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