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納屋へ戻ると、そこにはまだマザー・モウが佇んでいた。彼女は微動だにせず、僕が歩く姿をじっと見ていた。青黒い、ガラス玉のような彼女の目が細かく震えている。
僕は数十秒間、彼女と見つめ合っていた。そして、口火を切る。
「マザー・モウ。なにか、僕に言いたいことがあるんだね?」
僕は彼女の顎の下を撫でた。彼女は七歳の牝牛だ。僕の見立てによれば、彼女はどんな牛よりも賢く、思慮深い。僕が話しかければ真剣に、僕の声に耳を傾けている。まるで、僕の言葉を完全に理解しているかのように。
「きみは、メイがああなっている理由を知っているね?」
僕は確信を持って訊ねた。すると、彼女は顎を少し下げ、顎の下にあった僕の手を押した。まるで首肯しているようだった。
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