空っぽだけど、満ちる夜

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「大食いとか思ってないから。何か食べたら?」 「え?」 「今日、ちゃんと食べれた?」  言ったとたん、ぐうぅ。とおなかが鳴った。 「ほら」  中島くん、笑っている。きっとまぬけな私をあざ笑っているのだ。  悲しい。でも本当に腹ペコなのだから、しょうがない。 「買ってきなよ、特大ラーメン」 「ううん……買わない」 「そっか。じゃあ、早く帰って何か食べな」  と、中島くんは言った。 「まぁ、あーいう場が苦手なの、分かるし。おれも一人で食べるほうが、楽で」 「え、そうなの?」 「うん。実は、さっきもあんまり、食べてない」 「そうだったんだ」  だから今、おにぎりなんだ。納得した。  そういえば歓迎会の時も、中島くん、ここにいた。おにぎりを傾ける、孤独なサムライ。 「咀嚼音とか、ちょっと苦手で。あと食べ物を人と共有するのも、ちょっと。神経質なのかもしれないけど、どうしても生理的に受け付けなくて。食べようとすると、気持ち悪くなっちゃうんだよね。もしかして、山田さんもそうなのかなって」 「わ、私はそういうのじゃ、ないけど……」  何といえば、いいか。
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