空っぽだけど、満ちる夜

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 おしゃべりしたりご飯食べたり一度にこなすのが苦手で、ついご飯が後回しになってしまうんです。あと人前で食べている姿を見られるのもちょっと気になるっていうか、食べ方とか、食べる順番とか、おしゃべりとのバランスとかすごく気になって、ついご飯が後回しになってしまうんです。  つまり、 「じ、じ、じ、ジイシキカッジョー……なのです」  自分のことを言うのが下手すぎて、「自意識過剰」が外国語のような発音になってしまった。  中島くんはへっ、と半分笑って、 「ジイシキカッジョー、なのですか。あーなるほど。何か分かる気がするわ」  と言った。  やっぱり失礼がはみ出している。  でも。 「でも、おれもそうかも」  とも、言った。 「要は気にしすぎなんだよね。でも、気にしたくないのに、どうしても気になってしまう。それで自分だけイライラしてて、疲れる。あーいやだ。何でこんな性格なんだろう」  そして、「ごめん、酔ってるわ」と、急に我に返って照れはじめた。 「聞き流してそして忘れてください」 「い、いいよ別に。私も同じ、ようなもんだから」  私は言った。 「きっと……人ってそんな変わんないよ。「自分は」とか「私だけが」とか、そう思ってしまう時も、あるけど」  とも。 「きっと、うまくやれるはずだよ」  中島くんが楽になるように言ったつもりだったけど、最後は自分に向かって言っているかのようになってしまった。  中島くんは、肯定も否定もせず、赤ら顔で笑顔を浮かべていた。  窓の向こうには、夜の月。  上弦の月、下弦の月。満月、新月。  どれもみんな同じ月だ。 「山田さんとも、あと少しかぁ」  中島くんは、ため息みたいにつぶやいた。
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