空っぽだけど、満ちる夜

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「おにぎりのお返しが、おにぎり」  と、かみしめるように言った。 「あっ」  ほんとだ。同じ商品を返すだなんて、考えたら、何それ、って話である。いやもう食べたよそれ、って話だ。同じもんばっかり食わすなよこの大食いがっ、って話ではないか。 「ご、ごめ、ごめんね、考えなしの能無しで」  私は平謝りに謝った。  すると中島くんは、 「能無し? そんなこと思ってないよ。山田さん、ちょっと変だよね」  と、失礼さひとつまみ分を会話に加えてくるのだった。  そんな中島くんをいちばん見かけるのは、結局あのコンビニだった。なぜなら、二人とも近くの社宅用マンションに住んでいるからだ。ていうか新入社員たちは、ほとんどの場合そのマンションに住んで、東京の本社で一定期間働くことになっている。大体三ヶ月くらい。  今働いている私たち、それは仮の姿なのだ。夏頃に本決まりの辞令が出る。私はできたら、地元近くの営業所でちまちま働いていきたいと思っているけれど、中島くんは、どうだろうか。よく知らない。
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