空っぽだけど、満ちる夜

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 コンビニを出て振り向くと、窓越しに中島くんがバイバイと手を振ってくれた。  新入社員向けの辞令は、予定通り6月に出た。  私は希望通り、地元の営業所。  中島くんは、このまま総務に配属、とのこと。  ほかの新入社員たちも各所へ散り散りばらばらになる。  というわけで、やはり。会社としては「送迎会」をやらねばなっ。という話になったようなのだ。  気が重い。  風邪でも引いてしまえと思って、思いつく限りの主要な駅を渡り歩いてみたが、人より多めの脂肪は特別なバリア機能でもあるのか、ただただ東京見物を楽しんだだけに終わった。  気が重いまま、「送迎会」の日はやってきた。健康な私は出席しない理由がなく、末席をただ温める。 「山田さん、食べないの?」  先輩一人につき一回は言われてしまう。 「食べなよ」 「あ、はいありがとうございます」 「ところであれさぁ〜」 「あ、え、何ですか?」  やっとのことでつまんだ唐揚げを口に運ぶ猶予すらなく、話題はどんどん入れ替わる。話についていかなきゃ、お酒飲まなきゃ、笑わなきゃ、拍手しなきゃ。あと唐揚げ食べなきゃ。  ……ああ、だめ。 「では、この辺で」
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