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心花(こはな)、大丈夫? 何か気にかかってることでもあるの?」  夕食中、心の引っ掛かりを読んだのは都月だ。彼は優しい人で、私の憂鬱をいつも引っ張り出そうとしてくれる。乏しい表情から感情の尻尾を掴んでくれる素晴らしい人だった。 「……記憶を消せる薬の記事をね、見たの」 「うん」 「それでね、良いなって思って……」  少ない情報で把握したらしく、都月は静かに頷いた。いつのまにか、箸が箸置きに着席している。 「そうだったんだね。確かにずっと苦しんでるもんね。でも……」 「……あ、うん、分かってるんだ。今すぐ使いたいって訳じゃないの。副作用のこともあるみたいだし」  不安げな瞳を見たら、咄嗟にフォローを入れてしまった。真実でありながら、嘘も含んでいることに心が痛む。  副作用さえ吹っ切れたならば、今すぐにだって使いたかった。ネットで購入すれば、翌日にでも使えるし――となると、都月を納得させる方が優先だろうか。まぁ、未だ都市伝説と同じ感覚なんだけど。  使用者が多いのか、記事の全文には副作用の具体例があげられていた。二回目からは特に強いようで、記憶の混濁や、消した部分の戻りなんかが嘆かれていた。 「……それなら安心した。僕もね、それが何より心配なんだ。やっぱり一回使ってるし……。ねぇ、心花」  微笑まれ、両手を差し出される。反射的に重ねると、優しく力が加えられた。温もりが伝ってくる。 「僕は心花に何かある方が嫌だから、薬には頼らず一緒に少しずつ傷を癒していこう?」 「……うん、ありがとう」  私は、幸せな人間だ。  優しい旦那に、精神面も金銭面も委ねられる。それだけじゃない。時間もあるし、クリニックだって徒歩県内に位置している。前を向くための条件は、必要以上に揃っているのだ。  なのに、改善は歩み寄ってくれない。都月のために前を向きたいのに、現実にへし折られるばかりだ。  ストレスになっては元も子もないとは分かっている。けれど、プレッシャーを感じずにはいられなかった。
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