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そんなことを考えながら卒業アルバムを眺めていると、スマホが大袈裟な音を立てて着信を知らせる。
「わっ!?」
そんな声と共に思わず肩がビクリと跳ね上がった。
画面には『美咲』と表示されている。中学時代、同じテニス部だった友達だ。
安堵のため息混じりに「なんだ」と呟きながら通話ボタンに触れた。
「もしもし?」
『あーもしもし友香? 中学の同窓会どうする?』
「あぁ、同窓会、ね……」
卒業アルバムを見返していた理由を思い出す。中学の同窓会の誘いが来ていたのだった。
「美咲はどうするの?」
『うーんせっかくだし行ってみようかなって。テニス部の他の子にも聞いてみてだけど』
「そっか、私はまだ迷ってる。仲良かった子もそんなにいないし」
『えー、せっかくなら行こうよ。担任とかも来るらしいよ』
「そうなんだー、どうしようかな……ちょっと考えてみるよ」
『おっけー、それじゃあまた……』
「あ、待って!」
思わず美咲の声を遮ってしまった。
『ん、なに?』
美咲はテニス部の部長で友達も多かった。もしかしたら未来のことも知っているかもしれない。
「あのさ……多分ミライとかミクとか、ミクル……? だと思うんだけど……漢字で未来って書く名前の子、うちらの学年にいたっけ?」
そう言った直後、電話の向こうで小さく息を飲む音が聞こえた。
「……美咲?」
『…………』
美咲は何も言わない。彼女の方だけ時間が止まってしまったかのようだった。
「ねぇ、美咲? どうしたの? 美咲ってば!」
少し語気を強めて言うと、ようやく美咲の声が聞こえてくる。
『あ、あーごめん……そんな感じの子、いた、かも……? うーんでもあんまり覚えてないな。卒アルとか見たら思い出すんじゃない?』
明らかに動揺しているような声だった。
『……また連絡するから。じゃあね!』
美咲はそれだけ言うと強制的に通話を終了させる。
美咲は何か知っているようだった。そしてそれを隠しているようでもあった。卒業アルバムを見たら何かわかるだろうか?
最後のページを開いて床に置きっぱなしの卒業アルバムを拾い上げると私はページを前へとめくっていく。
クラスごとに生徒1人ひとりの写真が並べられたページまで遡り、私は『未来』の文字を探していく。
「……あった」
意外にもその文字はすぐに見つかった。
メガネに長い前髪、後ろでひとまとめにしただけの髪はボサボサで、笑うのが苦手なのか薄ら笑いのような表情を浮かべている少女。
名前は渡會 未来。3年2組。私と同じクラスだった。
念の為他のクラスも確認したが、未来という名前の生徒は渡會未来だけだったようだ。私のアルバムにメッセージを残したのは、恐らくこの子で間違いないだろう。
しかし……。
「こんな子いたっけ?」
不思議なことに彼女の名前を見ても、顔写真を見ても、それは初めて見る名前、顔のような気がしてならなかった。何も思い出せない。
私の記憶には存在しない未来という少女は本当に存在した。しかも少なくとも3年生の時は同じクラスで、卒業アルバムにメッセージを残すほどの仲だったらしい。
やはり私が、彼女に関する記憶だけ消してしまったのだろうか? だとしたら何故、なんのために……?
「……同窓会、行こう」
同窓会には未来も来るかもしれない。会って話せば何かわかるかも。
私はポケットにしまったスマホを取り出し、美咲にメッセージを送信する。
『やっぱり私も同窓会行こうと思う』
……あなたを記憶から消した理由を探しに。
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