卒業アルバム

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 同窓会当日、美咲と共に会場である地元の小さなホテルに到着すると、既に数十名が集まって談笑していた。 「久しぶり!」 「聞いたぞ、お前アメリカで働いてるんだって?」 「コンタクトに変えたの!? めっちゃ可愛くなってる!」  そんな声を聞き流しながら会場を見回し、卒業アルバムを見て覚えた渡會未来の顔を探すが、この中からは見つからない。まだ来ていないのだろう。 「友香! 美咲!」  そんな声と共に私の胸に飛び込んできたのは同じテニス部でダブルスを組んでいた(もえ)だ。 「わ!? 久しぶり! 成人式以来じゃない? 時の流れこわー」  私より先に美咲が隣で驚いている。  成人式……そういえば渡會未来とは成人式でも会っていない。卒業アルバムに『大好きだよ!』とまで書くような間柄なら会っていてもおかしくはないはずだが……。 「ねぇ反応薄くない? どうしちゃったのよ友香ー!」  あの頃と変わらない背の低い萌は不服そうに私の胸をポカポカと叩く。 「萌、びっくりした……髪色も長さも変わってて一瞬わからなかったよ」  成人式の日に会った時は、確か長い金髪だったはずだが、今は赤髪のショートカットになっていた。 「絶対びっくりしてないじゃん。どう? これもこれで気に入ってるんだ」  萌はぶんぶんと首を振って髪を揺らす。ちょっとあざといけれど本人にその気はなく、犬みたいでなんだか憎めない。  それに3年間、真摯に部活に打ち込んでいた姿を、私は1番近くで見ていたのだ。身体が小さい分、俊敏さを強化しようと、毎日誰よりも走り込みをしていた。萌のそういうところが尊敬できると思ったからダブルスを組んだし、そういうところが好きだった。 「うん、それも似合ってる。可愛いよ」 「やったー! 友香の可愛いゲットー」  萌の嬉しそうな笑顔はなんだかこちらまで元気になる。 「それで、なんでその色にしたの?」 「まぁ流石に社会人になったし? イメチェンだよイメチェン」 「いや社会人でその髪色もなかなかいないけどね?」  つかさず美咲がツッコミを入れる。 「まぁそれはそうなんだけど。髪色自由の会社見つけるのほんと大変だったー」 「どんだけ髪色こだわってるのよ」  そんな話をして笑いながらという言葉が胸の中で反復していた。  卒業アルバムの渡會未来は地味で大人しそうなイメージだった。けれど萌のように髪色を変えたり、メガネからコンタクトに変えたりしている可能性もある。  そもそも彼女が今日来ていなければ、探す意味もなくなってしまう。  今日の参加人数は93人。この中からイメチェンしている可能性、また今日来ていない可能性のある渡會未来を探し出すのは想像以上に難しいかもしれない。 「……そう明日香(あすか)があの時さー……友香覚えてる?」  突然美咲に話を振られ、私は戸惑う。明日香……テニス部の副部長で、美咲とダブルスを組んでいた子だ。 「あ、えっと……なんだったっけ?」 「うそ、覚えてないの? もう大変だったじゃん、1年の時!」  萌のその言葉を聞いて、なんとなく2人が喧嘩をしていたなと思い出した。 「あー、なんか2人が喧嘩してたことあったよね」 「もう喧嘩なんてレベルじゃないよー。明日香なんてダブルス解消するとか言って部活来なかったし!」  そういえばそんなこともあったかもしれない。もう卒業して10年。私は人より記憶力がないのか中学時代は覚えていないことが多い。 「あれは喧嘩っていうか……まぁ今思えばちょっとしたすれ違い、みたいな?」  美咲はバツが悪そうに頬を掻いて視線をあさっての方向へ向けた。  萌はそんな美咲を茶化すように彼女の手を取りぴょんぴょん飛び跳ねる。 「でもでも、仲直りしたあとは最強のペアだったよね! 最後の県大会ベスト8だったし! あの試合、アツかったなぁー」  予選落ちが当たり前、県大会出場を目標にするような弱小校だったから、美咲と明日香の県大会出場、さらにベスト8という成績はは学校でも大きな話題になっていた。 「あれは本当すごかった。学校に横断幕まで掲げられちゃってたよね」  私が言うと美咲は「もうやめてよ恥ずかしい」とさらに別の方向を見てしまった。 「なんか懐かしい話してんじゃん」  少し低めの涼し気なその声に振り向けば、パンツスーツに身を包んだ明日香が立っていた。
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