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「明日香! 噂をすればなんとやら……タイミング悪すぎ!」
美咲が怒ったように、だけど嬉しそうに言った。私と美咲はたまたま3年間クラスが一緒で仲が良いけれど、やっぱり3年間、ダブルスを組んでいたパートナーは特別なものなのだろう。
「美咲、久しぶり。待たせちゃったかな?」
そう言いながら明日香は慣れた手つきで美咲の髪を撫でる。昔からこういう、女子にモテるタイプの子だった。
「別に……友香と萌と喋ってたし」
「そう、じゃああたしはお邪魔だった?」
「そうは言ってない!」
「はいはい、わかってたよ。美咲は相変わらず可愛いな」
「……からかわないで」
普段堂々としている美咲がここまでタジタジになっているのは昔から明日香の前だけだ。
「ちょっと、そこでイチャイチャしないでよー」
萌が言うと「よしよし、萌も久しぶりだね」とやっぱり慣れた手つきで萌の頭を撫でる。萌は嬉しそうにえへへと照れ笑いをしていた。
「さっきまでペアのイチャイチャ見せられてたのはこっちなんだけど?」
美咲がそう言いながら苦笑いしている。
「友香、元気だった?」
美咲の髪を撫でながら「だからごめんて」と彼女をなだめたあと、明日香は私を見る。
「うん……明日香も元気そうでよかった」
なんだろう、明日香の目を見た瞬間、心臓がきゅっと握られたような気分になった。明日香がかっこいいからとか、そういうのとは違う。まるで深い闇の底に堕とされるような感覚。
その時、場内が少し暗くなり、主催者らしき人物が数名、スポットライトの下に現れる。同窓会の開始時刻になったようだ。
主催者が話し出すとほぼ同時、耳元で囁かれた低めの涼し気な声が鼓膜を揺らす。
「渡會未来を探してるんでしょ? 友香はまだ思い出してないみたいだから、全部教えてあげる」
思い出してない? 教えてあげる?
意味がわからない。やはり私は、渡會未来を記憶から消してしまったということなのだろうか。その理由は、一体なんなのだろうか。
この声の主ーー明日香はきっと全てを知っている。
そして私にはこの消した記憶を知る義務がある。
直感的にそう感じた。
「会が始まったらフロントで待ってる」
その言葉を最後に、声の気配はなくなる。
『それでは、時間の許す限りご歓談ください!』
主催者のそんな言葉と同時に明るくなった会場。
そこに明日香はいなかった。
「あれ、明日香は?」
「お手洗いかな?」
キョロキョロと辺りを見回す2人に「ちょっと探してくる」と声をかけ、私はホテルのフロントへと向かった。
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