2人が本棚に入れています
本棚に追加
「これ……誰からのメッセージだろう?」
私はそのバランスの悪い丸文字を指でなぞった。
中学校の卒業アルバムの最後のページ。そこは仲の良かった友達や先生からのメッセージを自由に書き込めるページになっている。
友達が多い方ではなかったが、同じ部活だった子や修学旅行で同じ班だった子、全員の卒業アルバムにメッセージを残していたお調子者の男子、部活の顧問や担任、学年主任だった先生など、20人程度からのメッセージと名前がそのページには並んでいた。名前を見れば当時の顔やどんな子、どんな先生だったかくらいはぼんやりと思い出せる。
けれどその中に1つだけ、私の知らない名前と身に覚えのないメッセージがあった。
『今までありがとう。高校に行っても元気でね。大好きだよ! 未来』
未来……よくいる名前だ。私の学年に未来という名前の子がいてもおかしくはない。だけど私の記憶には、卒業アルバムに『大好きだよ!』なんて書かれるほど仲のいい未来という名前の人物は存在しなかった。
いや、それどころか特段仲の良くなかった子の名前すらきっと何度か聞いたことがあるはずなのに、その記憶の中にすら未来という名前の子が見当たらない。
読み方は「みらい」とか「みく」とかいくつかあるけれど、そのどれを当てはめて記憶を手繰ってみても、それらしい人物を思い出すことができなかった。
3年間を通して1度でも同じクラスになったことがあれば、毎朝出席確認で名前を呼ばれているうちに嫌でも覚えるだろう。作文や絵など、何かで章を取っていれば全校朝会で名前を呼ばれることだってあるだろうし、逆に極端に勉強ができないとか、よく先生に怒られているとか、問題児だった場合も生徒間で話題に上がるはずだ。
つまり未来という人物は、恐らく1度も私と同じクラスになっていなければ、良くも悪くも目立つような子でもなかったはずだ。
そんな私の記憶に一切ない未来という名前の人物に、メッセージを残されている。しかも『大好きだよ!』とまで書かれている……。
他の誰かに宛ててメッセージを書こうとして、間違って私の卒業アルバムが回ってしまったのだろうか?
それとも単に、私が仲の良かった子を記憶から消してしまうほど薄情な人間だったのだろうか?
或いは……そこにはいなかったはずの未来という人物が、私に何か伝えるべくメッセージを残したとでもいうのだろうか?
……なんだか気味が悪かった。
最初のコメントを投稿しよう!