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こじんまりとした聖堂にはわたししかいなかった。明かり取りの小さい窓が天井近くにあるだけで、いつも薄暗い。
質素な祭壇の上に、ぽっかりと空間そのものをくり抜いてしまったかのような黒い『穴』が浮かんでいる。ちょうど人の腕が入りそうな、そのくらいの『穴』である。
その『穴』に手を突っ込んだ。
中はひんやりとしていて、空気よりも重く、水よりも軽い何かで満たされていた。しばらくその感覚を楽しんでいると、指先に何かが触れた。
生き物の指だ。
爪から手の甲、手首まで指を滑らせる。穴を満たしているものよりさらに冷たく、すべすべとして、この世で一番美しい手だと思う。
向こうからも手のひらを指先で優しくひっかかれて、吐息が漏れる。
あまりのんびりと戯れているわけにもいかない。息を整えて相手が握っているものを受け取る素振りを見せると手のひらの中に渡してくるのでしっかりと握りしめる。冷たい指が手の甲をそっとなぞってから離れていった。
そっと腕を引き抜くと、月に照らされた雪のようにぼうっと光る、こぶし大の美しい石が現れた。
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