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今日はホワイトデー。
僕のランドセルの中で小さなキャンディボックスが、居心地悪そうに身を潜めている。
義理だと思うけど…いや、絶対に義理なんだけど…隣のマンションに住むクラスメイトの知里がバレンタインにチョコをくれた。僕と、裕太に一つずつ可愛くラッピングされた手作りのチョコレート。
そのことを知っていた母ちゃんが「お返しはちゃんとしないとね」と、家を出る直前の僕のランドセルに無理やり可愛くラッピングされたキャンディボックスを放り込んだのだ。
嬉しそうにニコニコ笑顔で「行ってらっしゃい、ちゃんと渡すのよ〜」と手を振る母ちゃんを背に、僕はため息を一つついた。
こんな日に裕太は、インフルエンザで休んでいる。今日で四日目。
学校なんちゃら法というものがあるから、インフルエンザになってしまったら、最低でも五日間は休まなくてはならないらしい。前に僕がなった時もそうだったから、裕太はまだ来られないはずで、今日の悩める僕にとって大きな痛手だ。
どうしよう、いつ渡そう…
どんな顔で、どんな風に?
裕太がいれば、裕太に渡しておいてって頼めたのにな…
そんなことを考えていたら、いつの間にか今日最後の授業が終わっていた。
途中、担任の北村先生が「どうした櫂斗、今日はなんだかおとなしいなぁ。今週はずっと相棒いないからなぁ…寂しいのか?」と僕をからかった。
すると『確かにー!』と、教室がわいた。知里もクスクスと笑っている。
僕は照れ隠しに頭をかいて「いや、ただ先生の話に全集中してたんですよ」と、いつもの調子を装った。
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