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大樹の下で
若し僕が死ぬなら
巨きな闊葉樹の下で死にたい。
朽ち果てた僕は、やがて大樹の幹に吸われ、
生い茂る つややかな緑の葉に行き渡り、
再び 輝かしい太陽を浴びて、
青い空の 空気を吸うだろう。
今や 足は大地に根を張り、
胸は斯くもたくましく、
腕にたわわな緑葉をひるがえし、
遥かの地線を睥視する。
ー 或は秋 来れば 百葉のすでに黄ばみ、
吹く風ごとに ゆく時のあわれをふたたび知ろうか……。
冷雨のふりつのれば、枝々にたぎる涙とも
いやまさる孤独を胸に刺そうか。
ー 冬は 霧、霜、あられ、みぞれ降る時 ー。
寒風の肌を割れば、今や思惟の何かは無く、
情いなく、耐えしのぶ日々。
枯れた枝々の向こうに垂れ込める 灰色の空を見ながら……。
ー だが 陽と共に やがて春来たり、
雪は溶け去り、
吹く風にぬくもりを知るとき、
枝々にひるがえす新緑の樹葉。
雑草は足元に分け出で、
僕は一葉々々を翻えして、
春の陽のぬくもりと、歓喜に浸る。
ー かくて、大樹は老い、葉を茂る力も果て、
とこしえの眠りに就く……。
だが、朽木は ふたたび若木となり、
やがて大幹は空にぬきんで、緑葉は森をおおう。
見よや、枝々は風にたわわに、生い繁る樹々の群れとなり、
陽と共に緑を重ね、
青空を遥かに見て 飽くを知らず、
僕は 永遠の生命に蘇えるだろう。
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