放課後

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 先生は、俺の話をよく聞いてくれた。おかげで新しい気付きや考えが生まれて、心が軽くなる。どうも、自分が思っていた以上にため込んでいたようだ。  話の最後は、なぜか授業の復習。  そこで俺は、詩の「あなた」は人ではなく「遠く、彼方(かなた)」だと知った。 「山のはるか遠くにあるらしい幸せを求め旅立ったけど、見つけられず帰ってきた。人々は、さらにずっと遠いところに幸せがあると言う──大まかな現代語は、こんな感じね」 「えー、幸せのある場所なんて分からないよ」 「良い指摘ね。この『(さいわい)』をどう捉えるかがポイントだと、先生は思うわ」 「じゃあ、勝利とかでも良い? 俺の好きなサッカーって、どんなにすごいプロ選手でも全員優勝できるわけじゃないんだ。みんな負けたらすごく悔しがる。でも今度こそはってもっと頑張るんだ。この詩って、俺はそんなイメージ」  すると、先生は嬉しそうに笑った。 「それが詩を味わうってこと。自分なりの解釈をして表現できるの、素晴らしいわ。勉強、ちゃんと身についてるね」  俺は先生にお礼を言って、来た時とは大違いの気分で職員室を出ようとした。 「そうだ。先生」  ふと思いつき、振り返る。先生は小首を傾げて、先を促してくれた。 「この詩から『あなた』を消したら、何か変わる?」 「うーん。『山の空遠く』……語感は変わるけど、遠いのは同じかな」  俺は、一つ確証を得た。
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