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アレンスブルク王国に限らず、近隣諸国どこでも男女とも嫁ぐ方が持参金を持っていくしきたりではあるが、相手がなくても構わないと言えば持参金を持って嫁ぐ必要がなくなり、相手によっては支度金をくれる場合すらある。でも持参金を持っていかなくてもいいのは、必ずしも嫁・婿にとって都合がいい訳ではない。持参金は公式には嫁いできた本人だけの財産なので、婚家で虐げられた場合や離縁の際には最後の砦になる。だから両親がダニエラの美貌をお金に換えるような事をしたくないと言って彼女に不利な縁談を断っているうちに、ダニエラは、この国では嫁き遅れと言われる22歳になってしまった。
ダニエラは、自室に戻って封筒を開けた。余所の貴族家からの書状は、個人的なものでない限り、通常は当主宛に来るものだが、ダニエラは伯爵家に知っている人間がいないにもかかわらず、この手紙はダニエラ個人宛になっていた。両親が先に手紙を開けてしまえば、ダニエラに不利な事をさせないに決まっているから、自分だけでまずは読んで両親にどう伝えるか決めるつもりだった。
手紙は、ヴァッカーバート伯爵家が王太子ジークフリートの手紙を仲介したもので、王太子が直々にダニエラを王宮に招待すると書いてあった。王太子は、郵便配達人の少年と同じぐらいの年齢で19歳の弟より年下である。平民男性ならまだしも、仮にも王太子が5歳も年上の女性とどうこうなりたいと思っているとは思えないし、第一、彼には婚約者がいる。それにダニエラは社交界デビューもしていないから、見初められる機会もなかったし、ダニエラの家は貧乏な男爵家で彼女が王太子の後ろ盾になれる訳でもない。それぐらいはダニエラも分かっていたので、この召し出しには疑問しかない。でも家の苦境を助ける機会かもしれないと思い、ダニエラはこの招待を受ける事にした。
5日後、ダニエラを迎えに馬車と共に近衛騎士3名がやって来た。両親や弟に言えば反対されると分かっていたので、出発の朝に彼らに伝えた。家族は、ダニエラが隠し事をしていた事でそんなに信頼されていないのかと落胆し、心配したが、近衛騎士が安全を保証したので、渋々送り出した。
ダニエラが出立した後、郵便配達人の少年が配達にやって来た。彼女が近衛騎士と共に王都に向かったとダニエラの弟から聞いて、少年はなぜか分からないが彼女が帰ってこないような嫌な予感を覚えた。
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