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「ねえ、いつ私達が夫婦じゃなくて王妃と護衛だって気付いたの?」
「うーん、知り合って間もなくかな。王妃ヘルミネは美人で有名なのに君の変装は下手だったし、変装していてもそこはかとない気品が溢れていたから、ただの田舎成金男爵の妻には見えなかったよ」
「まあ、落として褒めるなんて、貴方は本当に女誑しね」
「君にだけだよ」
「またまた口ばっかり」
「嘘じゃないよ。僕は最初から君に首ったけだ。そうじゃなかったら、家族も事業も捨てて外国まで来ていない」
「わかったわ、貴方を信じる。でも、だったら旅に一緒に来て。ここにいると人前でイチャイチャできないじゃない」
「君と僕がイチャイチャして誰が文句を言うんだい? 誰も僕達が身体を繋げたのを見ていないだろう? イチャイチャしたって大丈夫だよ」
「でもドロテアとフレデリックが……」
「王太后陛下は寄る年波でもうそれほど脅威じゃないし、国王陛下は王太后陛下がいなきゃただの腑抜けだから大丈夫だよ。でもだからこそ、君がいない間は僕がしっかりしていないとこの王宮は駄目なんだ」
「まあ、貴方も言うわね! でも悔しいけどそれも確かね。けど、旅に貴方がいないのはつまらないわ。オリヴィエを夫役にするのはもう嫌なの。いくら嘘でも恋人が他の男の妻っていう振りは貴方も嫌でしょう? 本当ならフレデリックとも離婚したいくらいよ」
「悔しいけど今の僕にはこんな贅沢な旅三昧をさせてあげられないんだ。君にこんな素敵なドレスだってもう買ってあげられない。僕だって多少は商会で成功していたけど、君の側にいるために売り飛ばしてしまってもう何もないんだよ」
「ごめんなさい。貴方は私の側にいるためにこんなにも犠牲を払ってくれたんですもの、贅沢は言わないわ。でも寂しい……」
「僕にいい考えがあるよ。僕の友人で頭の切れる奴がいるんだ。ロベールを覚えているだろう? 彼を僕の補佐として雇ってくれれば、僕ももっと君の旅行に付き合えるよ」
「まあ! それはいい考えね! でも彼の事業はどうするの?」
「彼には優秀な部下がいるんだ。1週間に1日程度事業に当てられれば問題ないんじゃないかな」
「いいわね! さっそく手続きしましょう!」
それから間もなくアンドレの友人ロベール・リベルテが王妃の側近として雇われた。ドロテアは反対だったが、その話を知った時は反対するには既に遅かった。愛妻の貞淑を無駄に信じていたフレデリックは、もう1人雇えばヘルミネが侍従と2人きりになる機会が減って妙な噂が消えるだろうと微かな希望を持って賛成し、わざと実母に事前に教えなかった。
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