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アマーリエは父親の口ごもる様子を見て思い切って口を開いた。
「男の人と親しい関係になって情報を引き出すこともあるからですか?」
「お前はまだ子供だから想像もつかないだろうが、お前の考えてる『親しい関係』と実際することは違うぞ」
「そのぐらい知ってます。何をどうするのか説明しましょうか?」
「や、止めなさい! そんなこと、誰から聞いたんだ?!」
「聞かなくたって想像はつきます」
「そ、そんな訳ないだろう?! 誰かが閨の教本を渡したのか?」
「いいえ。とにかく私が知っているのは誰かのせいではありません」
ルートヴィッヒはふうーっと大きなため息をついて話し始めた。
「お前が知っているなら……一番の理由はわかるだろう? 危険だからという理由だけではない。任務で純潔でなくなるようなことがあれば、王家に嫁ぐ資格を失うからだ。純潔っていうのはだな……ゴホン……わかるかな?」
「知っています。それでも構いません」
「……! お前は殿下を慕っているのだろう?」
「だからです。殿下を守りたいのです」
「その結果、お前が殿下と結婚できなくなっても諜報員になりたいのか?」
「……はい。殿下が別の女の人と結婚するのは……やっぱり嫌です。でもそうしないと殿下が……」
「殿下と結婚したいんだね。それなら我慢して悲しい思いをすることはない。殿下のことは、近衛騎士団と我が諜報部隊も守っている」
「それだけでは心配なんです」
「心外だよ。こんな小さくてかわいい娘に手伝ってもらわなきゃ天下のアレンスブルク王国近衛騎士団と諜報部隊が殿下を守れないわけないだろう? 私達の実力を舐めてもらっちゃ困るな」
「そんな馬鹿にしたつもりはないです。大好きな殿下を自分でも守りたいって思っちゃいけませんか?」
「それは立派な心掛けだよ。でも我が公爵家も殿下を守っていることはアマーリエが守っているのと同じようなことだ。それに殿下はアマーリエに守ってほしいって思うかな? 婚約者に守ってもらうなんて殿下の自尊心を傷つけると思うよ」
「それは……」
「それに私は結婚前の娘に仕事のためだけの男女関係を持ってもらいたくない。そんなのは娼婦と同じだ。とにかくこの話はこれでお仕舞いだ。早く寝なさい」
寝室を出て行く前にアマーリエの頭を撫でたルートヴィッヒの手の感触は優しかったが、娘の懇願を拒絶する態度は有無を言わせなかった。どうやって父の説得をすればいいか悶々と考えているうちに、寝台に横になったアマーリエの意識は闇に沈んでいった。
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