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オルデンブルク公爵家は代々王家の諜報部隊を率いている。アマーリエの4歳上の兄フィリップは、今年から有力貴族子弟の在籍する寄宿学校に入学し、学業の傍ら生徒達を監視している。入学前には諜報部員として一通りの訓練を終えた。アマーリエは訓練を始める前に王太子の婚約者となったので、婚約解消しない限り、諜報員になる予定はない。王室メンバーは諜報員として働かないという不文律があるからだ。
ジークフリートが父フレデリックに内緒で諜報員として活動したいのは、母ヘルミネとその愛人と目される侍従達や王宮に勢力を伸ばす革命派の動向を見張りたい故である。ヘルミネはもう何年も前に旅先で出会った青年に感化されてジークフリートの家庭教師として自由主義信奉者を送り込むばかりか、自分の侍従としても雇った。幼かったジークフリートは当初、彼らの思想に共感したが、やがて彼らは隣国の革命派に繋がっているのではないかと疑うようになった。もちろん彼らの動向はオルデンブルク公爵家も追っているが、母の侍従は既に王宮内に革命派の網を張り巡らしているだろう。ジークフリートは王宮内部から彼らを探るには自分が最も適していると自負している。
ヘルミネが王国に危険な思想や人間を持ち込んでも、フレデリックは惚れた弱みでヘルミネに強く出れない。ヘルミネの天敵の王太后ドロテアは、最近健康を害しつつあり、昔のようにヘルミネの行状に睨みを効かせられなくなってきている。
「そうですか。残念です。では自分なりの方法で隠密行動をします」
「殿下!」
ジークフリートはルートヴィッヒの呼び止めも無視して公爵家を辞した。彼は自分なりに革命派を探ろうと決意していた。
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