幕間7 修羅場

2/4
前へ
/100ページ
次へ
 フレデリックののきょうだいは全て妹だ。1人は子供のうちに亡くなり、もう1人は死産、後の2人は成人後、それぞれ国内と外国に嫁いだ。フレデリックの母ドロテアは頑張ってもう1人息子を産もうとしたが、5人目の子供の死産後、次の妊娠が望めなくなり、夫である先代国王エルンストと閨を共にしなくなった。  アレンスブルク王国は公的には一妻一夫制だが、王侯貴族が愛妾を持つことは多々ある。ドロテアの夫エルンストも例を違わず、愛人と子供の存在を苛烈な妻に長い間隠していた。その子供がフレデリックの12歳違いの異母弟アウグストである。  ジークフリートが生まれた翌年の王国歴432年――  国王エルンストは死の床にあった。エルンストが呼んでいるというので、ドロテアは夫の寝室に入った。換気がされていないのか、死の床のどんよりとした雰囲気のせいなのか、空気が淀んでいるように感じられる。薄暗い部屋には、国内に嫁いだ娘とフレデリック、侍医、看取りのための神官、国王付きの侍女と護衛が勢揃いする中、場違いの男性がいた。若干18歳にして義父を継いで宰相に就任したアウグスト・フォン・ナッサウであった。 「宰相、なぜここにいる? ここは政治の場ではなく、王家の私的な場。貴方は宰相とはいえ、いてもよい場所ではない。出て行きなさい」 「……彼には……いて……もらう。フレディ……人払いを……」  父に愛称で呼ばれた長男フレデリックは、侍医、神官、侍女、護衛全て外に退去させた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加