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ドロテアは、アウグストが彼女の死産と同じ年に生まれていたことが悔しくてたまらなかった。それに時期は分からないが、亡き夫が子供達に自分よりも先にアウグストの存在を打ち明けたのも妻としての自分の存在を軽視されたようで我慢ならなかった。
エルンストは実際には死の数週間前に初めてフレデリックに異母弟の存在を告白した。長年、叔父に当たるナッサウ公爵と愛人と連絡を仲介する忠実な侍従以外にはアウグストの存在をずっと秘密にしていた。彼は目的によっては残酷になれる妻から次男を守るため、子供のいないナッサウ公爵に頼み込んでアウグストを彼の養子にした。弱みを握られたエルンストは叔父を宰相に任命するしかなくなり、その嫡子であるアウグストがその地位を継いだ。
エルンストの叔父には王位継承権があったが、アウグストは叔父の養子となって傍系2代目となり、本来なら王位継承権は与えられなかった。だが、寿命を悟ったエルンストがアウグストを死の直前に認知して王位継承権を与え、長男フレデリックと当時生まれたばかりの孫ジークフリートに次いで第3位の王位継承権を持つこととなった。
エルンストは子煩悩でアウグストが愛しかったが、大っぴらにはできず、年の離れた義理の従弟として可愛がるしかなかった。それでもドロテアは時々隠し子ではないかと疑ったが、その度にエルンストは妻に胡麻をすって誤魔化した。
ドロテアは死の床の夫の打ち明け話を渋々受け入れるしかなかった。エルンストの亡くなった翌日の広報に王の訃報と共に新しい王位継承権保有者が発表されてしまったからだ。何より、フレデリックがアウグストの存在を受け入れ、2人の関係が表面上、悪くなかったこともあった。だが、この件は王家内部のスキャンダルを印象付け、体面を傷つけてしまった。
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