2.アマーリエの目覚め

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 しばらくすると、ドアがノックされた。アメリーが『はい』と答えると、30歳ぐらいの男女とそれより年上の中年男性が入って来た。女性は、高級そうな素材ではあるものの仮装行列みたいな大仰なドレスを着用しているのに対し、男性2人は地味な普通っぽい黒いジャケットとスラックスを着ている。ただ、よく見ると片方の男性の服が少々くたびれているようだ。女性はベッドの所まで来るとアメリーにガバッと抱き着いて叫んだ。 「アマーリエ! やっと目が覚めたのね!」 「い、痛っ!」  アメリーが痛いと言っても女性は構わず抱き着いたままでマシンガンのように話し続ける。 「ああ、よかった! あの王子と婚約してたった半年でこんなに色々起きるなんて! 貴方! もうこんな婚約止めましょう!」 「い、痛いです!」 「シャルロッテ! 君もこの婚約の重要性は分かっているはずだ」  くたびれていない方の服を着ている男性は、アメリーが痛みを訴えたことよりもシャルロッテという女性の言ったことの方が気になるらしい。 「そんなこと、かわいい娘に比べればちっぽけな話よ! ああ、アマーリエ! なんてこと! 社交界デビューもまだなのに、こんな怪我を負って青あざまで……! でもかわいいお顔に傷がつかなくて何よりでしたわ!」 「何言ってるんだ! この婚約がちっぽけな話の訳がない!」 「旦那様、奥様! それよりもお嬢様はまだ意識を取り戻されたばかりですので、お靜かに……」 「「あっ、それもそうだな」ですわね」  夫婦と思われる2人の口論の最中、アメリーは何度も口を開きかけては閉じた。くたびれたジャケットの男性のおかげでやっと口を挟めそうだ。婚約の重要性とか訳のわからないことが聞こえたのはとりあえず後で聞くことにして、最重要な事をまず聞く。 「あのー、私を助けて下さったんですよね? ありがとうございます。それと、私、アマーリエじゃなくてアメリーです。家に電話したいんですけど、私のスマホどこにありますか?」 「貴女の名前は、ソヌス語読みにすれば『アメリー』だけど、ここはアレンスブルクなんだからアマーリエでしょう。ソヌス出身のクソ王妃に感化されないでちょうだい」 「お、おい、不敬だぞ!」 「あのー、この際、名前の読み方はどうでもいいです。家に電話したいんです。私のバッグどこですか? バッグにスマホが入ってた筈なんですけど」 「『すまほ』? 『でんわ』? なあにそれ? 家にほにゃららしたいってここが貴女の家でしょ」  そこで『くたびれジャケット』氏が夫妻に耳打ちした。 「えっ、まぁ! まさかそんな!」 「奥様、少しお声を抑えて下さい」 「あっ、そうだったわね」 「旦那様、奥様。これからお嬢様の状態を把握するためにいくつか質問いたします」  そこから『くたびれジャケット』氏によるアメリーの尋問が始まった。
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