8.王弟の野心

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 それ以来、アウグストの(たが)が外れた。国民に大きな負担をかけずに借金に喘ぐ王国の財政を立ち直そうと頭を悩ませていたのが馬鹿馬鹿しくなった。反対派を力でねじ伏せて増税に踏み切り、賛成派に袖の下を配って自分の派閥を大きくし、私腹も肥やした。国民には圧政の元凶として嫌われたが、どうせ最終的にはエルンストの次に即位した国王たる異母兄フレデリックの責任だから、自分の即位を支持する高官を増やすほうが重要だ。フレデリックはちょっと兄上~と慕ってみせれば、ちょろいので簡単に誤魔化せた。  4歳年上の義姉ヘルミネはほとんど王宮にいないから数に入れる必要はない。それどころか今や顔すら見たくない。可愛さ余って憎さ百倍だ。アウグストは、彼女を初めて見た時、全身にビビビッと電撃が走った。それ以来、兄の目の届かない所で彼女に言い寄ったが、王宮内の色々な男を愛人にしている癖に彼女はアウグストに全く靡かなかった。言うに事を欠いて『私は面食いですの』だと!  彼の目鼻立ちは何だかちぐはぐな印象を与え、美男子の異母兄フレデリックに遠く及ばない。奥二重の目と薄い唇、受け口は神経質で酷薄そうに見えるのだが、大きな鼻と太い眉はその逆の印象を与える。残念ながら両親の悪い所ばかり掛け合わせて引き継いでしまったようだ。
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