8.王弟の野心

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 実父死去後に娶った国内の高位貴族出身の妻はヘルミネにも負けず劣らず美しく、彼は知らず知らずのうちに自分の容貌への劣等感を美しい妻で補完していた。しかもヘルミネと違い、王宮で宰相として仕えて滅多に領地に帰れない夫のために健気に領地経営の代理を務めていると評判であった。アウグストはヘルミネを悪妻と陰で笑い、フレデリックに対して仄暗い優越感を持った。でも実際にはアウグストの妻も似たり寄ったりであった。彼女はアウグストに隠れて領地の公共事業費から金を抜いたりして私腹を肥やし、ナッサウ公爵領の領民の怒りはアウグストの知らぬうちに徐々に蜂起寸前まで膨れ上がっていった。  フレデリックと違って継母ドロテアはアウグストを徹底的に嫌った。でもあの猛者も寄る年波にはもう勝てない。後はちょろい異母兄とまだまだ子供の王太子だけ。我が世の春は近いはずだった。  アウグストの成功の方程式は、王位への欲望と自慢の妻から崩れていった。  ある日、アウグストの王都の屋敷に招かざる客が事前の約束なしに訪れた。 「何の用でここに来た?」 「お分かりになっているでしょう?」 「いや。私から言うことはない。用件がそれだけならもう帰り給え」 「……やはりは出来が違いますね」 「褒めても何も出ないが? 単刀直入に言え」 「いいでしょう。王になりたくありませんか?」  アウグストはすぐにその人間を屋敷から追い払った。それを何度も繰り返し、2人は徐々に距離を詰めていった。
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