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「ううう……でもレシピのためにお店を脅したりしてないですよね?」
「どうしたの、アマーリエ? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。それよりケーキ屋さんを脅してないか心配です」
「僕がそんなことするって思ってるんだ。心外だなぁ。アレンスブルク王国王太子の品性が疑われるようなことをするわけないよ。王宮から門外不出にするから教えて欲しいって頼んだだけだよ」
「でもジークに頼まれたら断れる人なんていませんよ」
「外国のお店なんだから、そんなことあるはずないでしょう。アレンスブルク王室御用達って宣伝してもいいって許可を与えてレシピ代を払っただけだよ。それより遠慮しないで食べて。ほら」
ジークフリートは自分の前にある皿にマカロンとトルテを載せてアマーリエに渡そうとした。アマーリエは両手を伸ばして皿を受け取ろうとしたが、左手が震えて皿を落としてしまった。皿は割れなかったが、皿から落ちたマカロンとケーキがテーブルの上に転がった。
皿がテーブルの上に落ちた音を聞いてガゼボから距離を取って控えていた侍女達と護衛達が慌てて近づいて来た。
「私が皿を落としてしまっただけだ。護衛は下がってよい。皿と落ちた物だけを片付けてくれ」
テーブルの上を綺麗にして侍女達が下がると、ジークフリートはアマーリエに詫びた。
「ごめんね。僕が横着したから。僕が立って君の元に皿を持って行けばよかった」
「そんな! 王太子殿下に給仕していただく訳にいきません!」
「ジーク、でしょ?」
「あ、はい……でもジークにそんなことしてほしいわけじゃないです」
「わかったよ……でも、その、左腕はまだうまく動かないの?」
アマーリエは、罪悪感に満ちたジークフリートの表情を見てしまったと思った。
「ええ、ああ、でもほんのちょっとだけですよ。日常生活には支障ないですから心配しなくても大丈夫です」
「実際、今みたいに支障あるだろう? 済まない、私が不甲斐なかったばかりに……」
「ジークにそうやっていつも謝られるほうが辛いです」
「そうか……ごめん……」
「また謝った!」
「わかったよ。ありがとう。君は本当に……」
「『本当に』何ですか?」
「何でもないよ」
「教えてくれないのですね……つまらないなぁ」
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