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「ジルヴィア、わざわざ敵を作らなくていいのに」
「使用人がお嬢様の噂をするなんて公爵家の恥です。侍女長に話して躾を徹底してもらいます」
「そういうの告げ口って言うのよ」
「いいえ。愛の鞭です。どこに行っても主人一家の噂話をする使用人は敬遠されますから」
「でもあれは本当のことだから……」
アマーリエの長いまつ毛のついた瞼はふるふると震え、今にも涙が落ちてきそうだ。
「あの優しかった殿下がそんな風になったってまだ信じられない…」
「これには何か理由があるに違いありません」
「……でも殿下は私に事情を話してくれないのよ。それって浮気は本当だってことじゃない? 私が成人してたら夜会でも殿下にくっついてそんな女の所に行かせないのに……」
「いい案があります。うちの爵位は低いですが、旦那様の協力があれば殿下が出席する夜会に出てあの女を牽制することもできます。例え殿下が私と踊ったとしても、私とでは年齢も実家の爵位も釣り合いませんから、うがった見方はされないでしょう」
ジルヴィアは今年22歳になるから、ジークフリートの5歳年上になる。現代だったらそのぐらいの年齢差の姉さん女房は不思議でも何でもないが、この時代の王侯貴族ではほとんどありえない。しかも彼女の父は子爵だから、王太子妃になるには爵位が低過ぎる。それに対し、伯爵令嬢はぎりぎり王太子妃になれるし、パオラはジークフリートと同い年なので、ジークフリートの伴侶になれる希望を捨てていない。
アマーリエの父ルートヴィッヒはもちろんそんな企みを成功させるつもりは全くない。ジークフリートの行状には腹を据えかねているが、まだ婚約破棄させるまでは考えていない。ジークフリートはルードヴィヒにもアマーリエにもその行動の理由を何も言わないものの、ルートヴィヒは王家の諜報部隊の責任者としてその理由の推測はできている。ルートヴィヒは、今度の夜会でパオラをエスコートしない事と、主賓の後の最初のダンスの相手にジルヴィアを選ぶようにジークフリートと約束を何とか取り付けた。
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