14.エスコート争い

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14.エスコート争い

 今晩、夜会でジークフリートは、王の名代として王妃ヘルミネをエスコートすることになっていた。本当は汚らわしい女に触れたくもなかったのだが、王太子の務めだから仕方ない。王族の控室でジークフリートがため息をついて肘を母親の方に差し出すと、ヘルミネは眉をひそめて文句を言った。 「何よ、辛気臭いわね」 「今日は私が父上の名代です。本当は嫌な所をわざわざ貴女をエスコートしてあげるんですよ! ありがたく思って下さい!」 「私を母として王妃として敬う気持ちの欠片も見られないわね」 「貴女がいったいいつ母親らしいことや王妃としての務めを果たしたのですか? 私には一切記憶がありません」 「全く失礼な男ね! こんな子、痛い思いして産むんじゃなかったわ!」 「ああ、産んでくれたことだけは感謝しますよ。でもそれだけですね」 「生意気なその口を閉じなさい! 冗談じゃないわよ! 乳臭い坊やのエスコートで我慢してあげようと思ったけど、我慢しないことにしたわ! アンドレ、来て!」 「来なくていい! 王妃が侍従にエスコートされて入場するなんて大恥だ!――母上、いつも遊びまわっているんですから、今日ぐらい王妃としての務めを全うして下さい!」 「遊びまわってなんていないわよ。外交に社交、アンドレと協力して慈善活動も頑張ってるのよ! それにアンドレは母国では子爵子息よ、ただの侍従じゃないわ!」 「彼は家を捨ててきたのでしょう? それならただの侍従です、使用人ですよ。それから貴女達のしていることは遊びです。役にも立たず、かえって我が国に害を成している」 「言うに事を欠いて!」  2人が言い争っている間に王族専用控室に入れるはずのない人間がいつの間にか入り込んでいた。ルプレヒトは、2人を仲裁しようと必死でそれに気が付かなかった。
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