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「殿下~! 王妃陛下の気が進まないそうですから、私が喜んで殿下にエスコートされてあげます!」
パオラがジークフリートの腕をがっしりと掴んでいる間に、ヘルミネはアンドレのエスコートで夜会会場に入場してしまった。
ジークフリートは思わず小さく舌打ちしてしまったが、ツヴァイフェル伯爵家に潜入する目的を果たしていないので、パオラをまだ切ることはできない。ジークフリートとルプレヒトは、王家の諜報部隊を脱落したエミールという者をこっそりスカウトして王太子直属の諜報員に仕立て上げたが、意外に守りが堅いツヴァイフェル伯爵家に潜入することができていない。だから正々堂々と招待されて行くことにしたのだが、まだ招待の日まで間がある。
本心ではここで彼女を冷たく振り払いたくても、ジークフリートは我慢して優しく宥めた。
「パオラ、今日も綺麗だね。でもここにどうやって入ったの?」
「うれしい、ありがとう! 殿下に呼ばれているって言ったら、護衛が入れてくれたの」
それを聞いてジークフリートは近衛騎士団の再教育をしなくてはならないなと痛感した。
「でもね、今日は母上をエスコートするって約束してたんだ」
「でも陛下はもう入場されたからいいでしょう?」
「うーん、でもオルデンブルク公爵が怒っているんだよね」
「あのうちの子供とは婚約破棄するんでしょう? なら関係ないわ」
「そうもいかないよ。彼は重臣だ。何があっても我々王族はオルデンブルク公爵とよい関係でいなくてはならない」
「そういうものなの?」
ジークフリートは頭が痛くなってきた。
ジークフリートはパオラを無視して夜会会場に出て行くことにした。本当なら王妃が最後に入場なのに、彼女はもうとっくに入場し終えている。
「母上ももう入場したから、もう行くね。後で踊ってあげるから、ここは勘弁して」
「えっ?! ジーク、待って!」
ジークフリートは、許可していない愛称呼びを勝手にされ、内心ますます頭にきて本能的にパオラを半ば強引に振り切ろうとしたが、彼女は意外にしぶとく、ジークフリートの腕に手を伸ばしてくっついて一緒に入場してしまった。そんな2人の姿は、会場の全員に目撃されてしまった。
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