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「それじゃ殿下、踊って下さる?」
「済まないが、今日は2番目にトロイ子爵令嬢と踊ることになっているんだ」
「どういうことですか?! いったい誰なんですか、その子爵令嬢って。相手が子爵令嬢なら、伯爵令嬢の私が優先されてもおかしくないですよね?」
「オルデンブルク公爵との約束なんだよ。だから悪いけど、後で踊るから今は勘弁して」
「殿下、そんな……」
そこにちょうどドレスを着て着飾ったジルヴィアが2人に近づいてきた。
「殿下、遅くなりまして失礼しました」
「トロイ子爵令嬢、ちょうどよかった。遅かったね、何をしていたんだ?」
「友人達にちょっと集合命令を、いえ、何でもございません――ツヴァイフェル伯爵令嬢、それでは失礼しますね」
「何よ、貴女! 誰かと思ったら、あの子供の侍女じゃないの!」
「パオラ、それはいくらなんでも失礼だ。謝ってほしい」
「どうして私が侍女如きに謝らなくちゃいけないの?! 殿下、酷いわ!」
「わかった、わかったよ。ここは勘弁してあげるから、後でね」
ギャーギャー喚きだしたパオラを止められそうもないと思い、ジークフリートは無理矢理話を打ち切ってジルヴィアとホールの中央へ躍り出た。2人は息の合ったダンスを繰り広げながら、傍からは思いもかけないような舌戦を繰り広げていた。
「ツヴァイフェル伯爵令嬢が失礼した。すまない」
「王太子殿下が婚約者でもない令嬢のために婚約者の侍女に謝罪するのですか?」
「これは、これは……トロイ子爵令嬢は手厳しい」
「今日は不敬を承知でお嬢様のためにお尋ねします。どうしてツヴァイフェル伯爵令嬢をお側に置くのですか?」
「理由はまだ言えない。でも浮気ではないことは信じてほしい。彼女とは身体の関係どころかキスすらしたこともない」
「分かりました。それは信じましょう。彼女の前に色々流していた浮名は?」
「それも理由はまだ言えない」
「でも誰とも身体の関係がなかったとは言えないんですね」
「……あっ!」
ジークフリートは珍しくステップを踏み違えた。ジルヴィアはそれを物ともせずジークフリートの体勢をさっと支えて踊り続けた。
「分かりました。お嬢様には、浮気ではないが理由はまだ言えないとだけお話しておきます」
「……ありがとう、と言っておくべきなのかな?」
「どうぞ殿下のご意思のままに」
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