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優雅に踊りながらも何かを話しているらしい2人をパオラは歯ぎしりしながら睨んだ。1曲目が終わるとすかさず2人に近づこうとしたが、ジルヴィアが仕込んでいた令嬢がさっとジークフリートに近づいてダンスの相手を奪ってしまった。それが何度か続き、パオラがジークフリートに近づけたのはジルヴィアを入れて6人目の令嬢が踊り終わってからだった。ジークフリートは、最後のダンス相手から解放された時、額に汗が浮かんで疲労の色を隠せなかった。
「パオラ、悪い。6曲連続はさすがに疲れた。喉も渇いたし、ダンスは後にしてくれないか」
「残念ですけど、殿下もお疲れですものね。それより汗をかいてますわ。飲み物を飲みながらテラスで涼みましょう」
「んー、そうだな」
ジークフリートは会場にいるルプレヒトに目で合図を送った。
会場の明かりが薄っすらと漏れるだけの暗いテラスや庭園、会場から離れた休憩室はカップルの逢引場所としてよく使われる。ジークフリートはパオラに声をかける前、色々な男女と2人きりでそういう場所に行ったが、パオラとは2人きりにならないように気を付けていた。だからパオラはジークフリートを思ったより簡単にテラスに誘い出すことができて単純に喜んだ。
薄暗いテラスには誰も先客がおらず、パオラはうれしくなった。
「殿下……お慕いしてます」
パオラはジークフリートに抱き着き、背伸びをしてキスをしようとしたが、ジークフリートは反射的に背を反らして顔を遠ざけた。ちょうどその時、2人の顔の間にルプレヒトが炭酸水の入ったグラスをにゅっと差し出した。
「お~っと、失礼します! 喉が渇いていらっしゃるでしょう? どうぞ」
鼻先に突然グラスを差し出されたパオラはぎょっとして叫んだ。
「ひっ!――ちょっと! 驚かせないでよ! とんだ邪魔よ! せっかくいい雰囲気だったのに!」
「えー、これが? 殿下のあってなけなしの貞操の危機でしたよ」
「何失礼なこと言ってるのよ!」
「いつも通り失礼だな、ルプレヒト。でも助かったよ、ありがとう。喉がすごく渇いていたんだ」
「殿下、ひどい。『助かった』だなんて」
「喉がカラカラだったって先に言ってたでしょう? 恵みの水だ」
ジークフリートはそう言って水を一気に呷った。普通だったら先に毒見させるが、ルプレヒトがジークフリートに持ってくるものはルプレヒト自身がいつも毒見している。
「君が僕と踊りたくないなら、今晩は疲れたからもう帰るね」
「えっ?! お待ちになって!」
パオラは会場に戻るジークフリートを慌てて追い、ようやく1曲一緒に踊ってもらった。もう1曲続けて踊ってもらおうと頼んだが、本当に疲れているからとジークフリートはパオラに詫びてさっさと帰ってしまった。
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