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王妃ヘルミネの叔母ユージェニーが嫁いだ先の旧ルクス王国で起きた有名な悲劇はルプレヒトも知っている。王家に嫁ぐ女性は純潔でなければならないという王室典範故に、最後のルクス国王エドワードとその王妃ユージェニー、彼の元婚約者ステファニーの3人が不幸になった。
「あの女と正反対の性格のよい女性なら、父上と両想いになってほしいよ」
「そんな都合よく父親ほどの年齢の男性に惚れる若い女性がいる訳がありません」
「父上はあれでも昔は僕に似た美男子だったんだ」
「発言がナルシスト過ぎますよ」
「お前はいつも通り、不敬だな。僕もただとは言わないよ。だから没落した貴族の令嬢の方が都合がいい。でも、報酬と引き換えでも納得してくれなければ、別の女性を探してくれ。始まりが金銭目的でも、もしかしたら父上の心の支えになってくれる女性が見つかるかもしれない」
「殿下……本当に赤の他人に王妃陛下から国王陛下を奪い取らせていいのですか?」
「仕方ない。毒を排除するには非情になるしかないんだ。どうせあの女は父上を愛していない。それに僕にはあの女に母としての情はない。それどころかあんな女から生まれてきたことが恥ずかしいよ」
「そんなことありません、殿下は立派な人間です。私は尊敬します」
「臣下としてだろう? 友人としてはどう思ってる?」
「ジークは俺の大切な友人であると同時に、尊敬する王太子だ。親は選べないだけだよ」
「ありがとう。お前がいてくれてよかった」
ジークフリートは、ルプレヒトに右手を差し出した。ルプレヒトはその手を右手でがっしりと握り、左手をジークフリートの背中に回した。夜会から帰ってきた時のジークフリートのくたびれた様子は一転し、その瞳には強い決意の光が灯っていた。
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