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4.もしかしていい人?
その高貴な人物――ジークフリート・フォン・アレンスブルク――が部屋に入って来たのを見て、アメリー=アマーリエは衝撃のあまりフリーズした。よく知られている写真や肖像画よりも若く、まだ少年と言っていい。それも相当の美少年だ。髪は淡いプラチナブロンドで瞳は南の島の海のように透き通るエメラルドグリーン。白磁のように滑らかな肌の頬は、急いで来たせいか、少し上気していて色気がすごい。
名前と顔からはどう考えても、アメリー=アマーリエの目の前にいるのはあの悲劇の王太子ジークフリートのようだ。でも本当に本物なのか、アメリー=アマーリエは目を疑ってしまった。
「……リエ、気分はどう?」
「……」
フリーズしたままの娘にルードヴィヒが『殿下に返事をしなさい』と雷を落とした。アマーリエはビクッとして正気に戻った。その途端、麗しい尊顔がすぐ目の前にあるのに気付いて思考が停止した。
(ハァ……無理!)
「アマーリエ、聞いたよ。記憶が混乱してるんだってね。ごめんね……僕が支えきれなかったばかりに……」
ジークフリートは悲しそうにアメリー=アマーリエの手をそっと取った。衝撃のあまり、少しずつ戻ってきた彼女の頭の中がまた無に戻った。
「な、何をおっしゃいますか! 殿下がご無事で何よりです! 幸い、娘は頭に瘤と右腕骨折と足首ねん挫とちょっと全身に青あざができたくらいで顔には傷はありませんし、記憶はこれからどうとでもなります!--な、アマーリエ?」
(え?! 全然『ちょっと』じゃない!)
ルードヴィヒの言い様がジークフリートは気に入らず、微かに眉を顰める。でも表情だけだったら余程ジークフリートのことを知らなければ気付かないだろう。
「オルデンブルク公爵、そんな訳ないでしょう? それだけ列挙できれば重傷です! それにさっきからちゃんとアマーリエの様子を見ていれば、彼女が混乱して私達の言うことにちゃんと反応できていないのがわかるでしょう?」
アメリー=アマーリエはジークフリートが思ったよりいい人で感激した。
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