19.アマーリエの懇願

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「そんな破廉恥な事をしなくても殿下を守るために情報収集はできる。必要なら他の諜報員にもさせることはできる。お前は身を守る事を一番に考えてくれ。それにお前には左腕と左肩のハンデも忘れてはならないぞ」 「他の女性にさせる事を娘にはさせたくないって酷いことを言っている自覚はありますか?」 「……あるよ。でも諜報員は何でもする覚悟で諜報部隊に入っている。元々、お前は殿下と婚約した以上、諜報員になる予定はなかった」 「私も諜報員になるのでしょう? それなら何でもする覚悟はできています」 「私は入隊させるとは言ったが、お前は正式な諜報員になれないだろう」 「どうして?! お父様は今さっき了承してくれたではありませんか! 嘘だったのですか?!」 「正式な諜報員の任命には王家の認可が必要だ。お前の入隊には正式な許可が下りないはずだ。だから国王陛下と王太后陛下、王太子殿下にも話は通すが、お前は非公式な諜報員になるだろう。だが王太子殿下直属にしてもらおうと思う」  アマーリエは、非公式な諜報員という立場に不満を持ったが、ジークフリート直属になるのなら悪くないと思い、了承した。  ルートヴィヒはヘルミネ以外の王室メンバーと話した結果、ジークフリートにはかなり渋られたものの、訓練が済み次第、アマーリエはジルヴィアと共に彼専属の諜報員となることに決まった。ジルヴィアは普段侍女を務めているが、実は諜報員でもある。彼女がアマーリエの訓練を担当することになった。  ジルヴィアのようにオルデンブルク公爵家一門の貴族女性が諜報員になるのは珍しい。なったとしたら、縁談相手は一門の中だけに限定される。ジルヴィアは22歳でこの時代ならとっくに結婚していておかしくない歳だが、少なくともアマーリエが嫁ぐまでは彼女に仕えたく、できれば嫁いだ後も仕え続けたいので、結婚はしなくてもいいと思っている。  女性と違って、公爵家一門の男性はほとんどが諜報員の訓練を受ける。中にはジークフリート個人付きの諜報員エミールのように脱落する者もいるが、任務や訓練の内容を外に漏らさないという誓いを立てて諜報部隊から離脱する。それを破ったら家族に類が及ぶ。エミールは誓いを破ったが、家族は無事だ。でもルードヴィヒにはエミールの今の主人が誰か、もちろんばれている。仕え先がジークフリートだから黙認しているだけだ。  アマーリエが非公式な諜報員になることに決定してから数日後、彼女はジルヴィアの元で諜報員としての訓練を始めた。それは今まで貴族令嬢としてだけ育ってきたアマーリエには、想像を絶するほど厳しいものだった。
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