20.ナイフの投擲練習

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20.ナイフの投擲練習

 アマーリエが非公式な諜報員になることに決定してから数日後、彼女はジルヴィアと共に公爵邸の裏手にある森に初めて立ち入った。  王都の公爵邸は、他の高位貴族のタウンハウス同様、その高い爵位に相応しく王宮に近い地区に位置し、広大な敷地を誇る。森は公爵邸の敷地内にあり、王都とは思えないほど緑が豊かである。鳥がさえずり、時折リスが木から登り降りする以外は静かで人影は見えない。もし森が一般公開されているのなら、都民の憩いの場となったであろう。だがこの森は諜報員の訓練場所であり、諜報部隊の連絡場所でもあるので、一般立ち入り禁止となっており、公爵の娘たるアマーリエさえも今まで近づくことは許されていなかった。  アマーリエとジルヴィアが森の奥へ歩いて行ってしばらくすると木造の家が見えた。ジルヴィアはポケットの中から鍵束を出して扉を開け、アマーリエと共に中に入った。ただでさえ小さな窓は黒い布で覆われ、家の中は半開きの扉から入る光だけで薄暗く、外見よりも意外に狭い。ジルヴィアはオイルランプに火を灯し、扉を閉めた。 「ここは射撃やナイフ投げの練習場ですので、外に音が漏れないように壁が厚くなっています」  練習場らしく、壁には何重もの円が描かれた、傷だらけの的がいくつか掛かっていた。ジルヴィアはアマーリエにナイフを渡し、床に引かれた3本の線のうち、一番的に近い線の後ろに立ってナイフを的に向かって投げるように伝えた。
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