20.ナイフの投擲練習

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 アマーリエは利き手の右手でナイフを投げたが、ナイフは的のかなり前に落ちてしまった。 「右手を負傷したら左手を使わなくてはならなくなります。左腕はお嬢様の弱点ですが、左手でもナイフがあの的の中心に届くようにしなくてはなりません」  アマーリエが今度は左手でナイフを投げると、ナイフはもっと手前、彼女のたった1メートルぐらい前でガシャンと音を立てて落ちてしまった。 「左手での訓練は右手で的に届いてからにしましょう」 「左手の方が的に届くまで時間がかかるでしょうから、交互に訓練するわ」 「下手に訓練すると腕を痛めます。左腕と左肩の機能回復訓練を再開して侍医が認めたら左手での訓練を始めましょう」  アマーリエは内心、少し不満だったが渋々了承した。落馬事故からしばらくの間、アマーリエは公爵家主治医の下で左腕と左肩の機能回復訓練を行っていた。でもあまり効果が見られず、王妃教育が開始されてからは忙しくて完全に中断していた。だがジークフリートのために何でもできることはすると決めた以上、何が何でも弱点を克服すると決意を新たにした。  アマーリエはその後、右手で10回ほどナイフを投げたが、いずれも的には程遠かった。仕舞いには右腕が痺れてきてしまい、最後の投擲では初回よりもナイフがずっと前に落ちた。 「お嬢様、右腕がもう痺れているでしょう?今日のナイフの訓練は終わりにしましょう」 「ええ、もう終わりなの?! 腕がちょっと痺れているだけよ。少し休めば大丈夫」 「いえ、今日は初日で色々お見せすることがあるので、さわりだけで十分なのです」 「そうなの……でも私ってば、弱すぎるわね。たった10回ぐらいナイフを投げたぐらいで腕が痺れるなんて」 「お嬢様は深窓のご令嬢で物を持ち運んだり身体を鍛えたりすることがなかったんですから、当然です」
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