21.射撃練習

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 ジルヴィアは床に立て掛けてあった等身大の人型の的を扉に立て掛け、上階に上がってきた。 「柵の上からでも柵の間からでもあの的にナイフと射撃が当たるようにするのがこの訓練の目的です」  そう言ったジルヴィアは初め、ロフトの柵の上から、次に柵の間からナイフを投げ、的に当てて見せた。アマーリエがやってみると、柵の上から投げたナイフは扉に遠く及ばなかった。柵の間からはナイフを投げる反動をうまくつけられず、ナイフはまるで落としたかのように1階の床にぼとりと落ちた。 「私にできるようになるとは思えないわ……」 「練習をすれば、お嬢様にもできるようになります。でも今日はこれで終わりです。立ち姿勢で投げたナイフが当たるようになってから上階からの攻撃練習を始めます」  ロフトからの射撃練習も、立ち姿勢で射撃ができるようになってからということだったが、ジルヴィアはアマーリエに見事な手本を見せてくれた。  これで今日の練習は終わりと聞き、アマーリエは緊張の糸が途切れて突然身体が鉛のように重くなってその場に崩れ落ちた。気が付いた時には、公爵邸の自分の寝室で横になっていた。  アマーリエは、その後もジルヴィアと訓練を続ける一方、侍医の下で左腕と左肩の機能回復訓練を行った。残念ながら効果はさほど見られなかったものの、数ヶ月後にアマーリエは左腕を肩よりほんの少し上に持ち上げることができるようになった。そこで左手でのナイフ投擲や射撃の練習を開始したが、苦手意識は拭えなかった。その他、アマーリエは武器を使わない体術での攻撃や守りの練習も開始し、暗器や拳銃の手入れも自分でするようになった。  諜報員には攻撃や守りだけではなく、情報収集も重要だ。その手段としてアマーリエは、野営や食料の入手方法、変装の仕方、鍵の開け方など色々身に着け、乗馬も上達した。人に不信を持たせずに雑談から情報を引き出す話法も、アマーリエはジルヴィアと練習し、訓練開始から1年後には立派な諜報員に仕立て上げられた。
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