22.ツヴァイフェル伯爵家でのお茶会

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「ジーク様!今日はいらして下さってありがとうございます!このサンルームはお気に召しましたか?」 「ああ、とても明るくて眺めもいいね」 「そうでしょう!母と祖母の渾身の傑作なんです!」 「え?」 「あ、いえ、殿下、もちろん私どもがサンルームを建てたというわけではなくて、私達のアイディアを形にしてもらいましたの」 「それはそうですよね。それにしても素敵なサンルームです。この色ガラスはソヌスからの輸入でしょう?」 「そうですの! よくお分かりになりますね!」  『ソヌスからの輸入』という言葉にツヴァイフェル伯爵の顔色が一瞬変わったようにジークフリートには思えた。  サンルームからは、あまり大きくなくとも季節の花々が咲き誇る美しい庭園が見える。この日の天気はよく、サンルームの中にガラス窓を通して燦々と太陽光が降り注いでいた。大きなガラス窓は贅沢に何枚も壁にはめ込まれており、その中に円形に張り出した出窓がある。出窓はよく見ると細長いガラス板を何枚も使って疑似的に円形が作り出されている。そこには交互に色ガラスが使われていて太陽光を通して色とりどりの光が床に伸びる。  このような高価な設備は、ツヴァイフェル伯爵家のように領地のない宮廷貴族には少々分不相応に感じられ、収入源が気になるところだ。当代・先代伯爵夫人とパオラのサンルームの自慢を聞く限り、サンルームへの改装は夫人達の希望で、今回のお茶会の場所として選ばれたのも伯爵自身は気が進まなかったようだった。  ツヴァイフェル伯爵夫人と先代伯爵夫妻はジークフリートとパオラの距離が今以上に接近するのを目論んでいるから、しばらくしたら当代・先代伯爵夫妻と伯爵嫡子はパオラとお目付け役の使用人を残して退室し、最後にまた挨拶に来るだろう。5人が退出するまでが勝負だ。ジークフリートはなるべく当代・先代伯爵夫妻との会話を引き延ばした。自慢のサンルームを褒め称えると、有頂天になった夫人達はここぞとばかりに口が止まらなくなったが、パオラが不満そうに隣の母を肘で突いた。 「あら、ごめんなさい。殿を独り占めするつもりはなかったのよ」  ジークフリートは、勝手にパオラのものにされてかなり不快だったが、愛想笑いをしてパオラのご機嫌をとり、再び伯爵夫人に話しかけ、彼女の話に耳を傾けた。
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