23.証拠

2/2
前へ
/100ページ
次へ
 女性の足音が近づいてきて『閣下、殿下が……』と伯爵を呼ぶ声が聞こえた。ジークフリートは、伯爵が執務室に行ったのを察して彼を呼び戻してくれたのだ。だが、それは諸刃の剣である。ジークフリートが伯爵を呼び戻したということは、ジークフリート一行が別れの挨拶をすることを意味する。伯爵達が部屋から出て行ったら、エミールは目的の物を盗んで早く護衛としての持ち場に戻らなければならない。  2人が執務室から出て行った後、エミールはもう一度ダミー本を引き抜き、隣の本の後ろの空間に手を伸ばした。空間の中は金庫になっていて鍵がかかっていた。少し手間がかかったが、エミールは無事に開錠し、中身の文書を白紙と入れ替えて本物は畳んで内ポケットに入れた。それから動かした物を元の位置に戻して窓から外へ出て、伯爵家の厩に行き、何食わぬ顔で護衛と馬車の馬の番に戻った。  ツヴァイフェル伯爵家から王宮に戻ってきたジークフリートは、ルプレヒトとエミールを除いて人払いをさせた。  エミールが伯爵家から盗んできた文書は、ソヌス王国の革命派が王弟アウグストに協力を説得するためのものだった。アレンスブルク王国がソヌス王国の革命に手を貸すのであれば、革命派はアレンスブルクで革命運動をせず、アウグストをアレンスブルクの国家元首として認めるという書状だ。ツヴァイフェル伯爵はこの書状を携えて何度もアウグストを訪ねたが、用心深いアウグストは『国家元首』という点が気に入らず、交渉を重ねていた。 「でかしたぞ、エミール!」 「ありがとうございます」 「でも殿下、アンドレと革命派の証拠はないですね」 「ツヴァイフェル伯爵を捕縛して尋問しよう」  ツヴァイフェル伯爵とその家族が連座で捕まったのは、それから間もなくだった。財産は没収され、王都の屋敷は接収された。  捕縛から数日後、ツヴァイフェル伯爵はアンドレとの関係を打ち明けることなく、牢で冷たくなっていた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加